約 773,991 件
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/54.html
涼宮ハルヒの暴走 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:平成16年(2004年)10月1日 本編319ページ 表紙絵:鶴屋さん・キョンの妹 タイトル色:水色 初出序章・夏(書き下ろし)、エンドレスエイト(ザ・スニーカー2003年12月号)、序章・秋(書き下ろし) 射手座の日(ザ・スニーカー2004年2・4月号)、序章・冬(書き下ろし)、雪山症候群(書き下ろし) 初出順:エンドレスエイト(第6話)、射手座の日(第9・10話)、雪山症候群(第14話) 裏表紙のあらすじ紹介 夏休みに山ほど、遊びイベントを設定しようとも、宿敵コンピ研が持ちかけてきた無茶苦茶無謀な対決に挑もうとも、ハルヒはそれが自身の暴走ゆえとはこれっぽっちも思っていないことは明白だが、いくらなんでもSOS団全員が雪山で遭難している状況を暴走と言わずしてなんと言おう。こんなときに頼りになる長門が熱で倒れちまって、SOS団発足以来、最大の危機なんじゃないのか、これ!?非日常系学園ストーリー、絶好調の第5巻! 目次 序章・夏・・・Page5 エンドレスエイト・・・Page7 序章・秋・・・Page86 射手座の日・・・Page88 序章・冬・・・Page181 雪山症候群・・・Page183 あとがき・・・Page324 アニメ テレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』より 2006年放送第11話(DVD第13話 構成第13話)『射手座の日』(2009年放送では第27話) 2009年改めて放送した『涼宮ハルヒの憂鬱』より 2009年放送第12話『エンドレスエイト』(ただし原作の失敗シークエンス。ループには気づいていない。つまり原作の展開を一部使ったアニメオリジナル回である)なお、『エンドレスエイト』は1期監督の石原氏によると、当初は1期に入れる予定があったそうだ。(憂鬱分が1話増えたので泣く泣くカットしたとか) 2009年放送第13話『エンドレスエイト』(原作の展開を大幅になぞりつつもエンドレス脱出失敗シークエンス。) 2009年放送第14話『エンドレスエイト』(原作の展開を大幅になぞりつつもエンドレス脱出失敗シークエンス。13話とは変更点がある) 2009年放送第15話『エンドレスエイト』(原作の展開を大幅になぞりつつもエンドレス脱出失敗シークエンス。13話、14話とは変更点がある) 2009年放送第16話『エンドレスエイト』(原作の展開を大幅になぞりつつもエンドレス脱出失敗シークエンス。13話、14話、15話とは変更点がある) 2009年放送第17話『エンドレスエイト』(原作の展開を大幅になぞりつつもエンドレス脱出失敗シークエンス。13話、14話、15話、16話とは変更点がある) 2009年放送第18話『エンドレスエイト』(原作の展開を大幅になぞりつつもエンドレス脱出失敗シークエンス。13-17話とは変更点がある) 2009年放送第19話『エンドレスエイト』(原作準拠のエンドレスエイト脱出エピソード。) 『序章・夏』-←新シリーズDVD第3巻限定版特典DVDに朗読+新規映像が収録『序章・秋』、『序章・冬』『雪山症候群』は2009年10月現在未アニメ化。 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第5巻に収録第20話『エンドレスエイト I』 第21話『エンドレスエイト II』 コミックス第7巻に収録第29話『射手座の日 I』 第30話『射手座の日 II』 番外編『射手座の後日』(漫画オリジナル) コミックス第10巻に収録第46話『雪山症候群 I』 第47話『雪山症候群 II』 コミックス第11巻に収録?第48話『雪山症候群 III』 第49話『雪山症候群 最終話』 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん 朝比奈さん(大) 谷口 国木田 コンピュータ研究会部長 キョンの妹 森園生 新川 多丸圭一 多丸裕 あらすじ・紹介 エンドレスエイト3巻『涼宮ハルヒの退屈』収録の孤島症候群が終わり、キョンが姪やらいとこやらと田舎で遊んで帰ってきた後の8月17日から31日までの話 射手座の日6巻『涼宮ハルヒの動揺』収録の『ライブアライブ』終了後の話。文化祭後コンピ研がハルヒが奪ったパソコンを取り戻すため、SOS団に勝負を挑んでくるがその勝負方法はコンピ研が作ったゲームだった・・・ 雪山症候群4巻『涼宮ハルヒの消失』そして6巻『涼宮ハルヒの動揺』収録の『ヒトメボレLOVER』終了後にSOS団はあらかじめ鶴屋さんに協力を得て別荘を使わせてもらいの合宿をするが、5人がスキー場でスキーを楽しんでいると突然吹雪になり遭難状態に陥る・・・ 後に繋がる伏線・謎 雪山症候群での謎の館、長門が干渉を受けたのは何故か。 雪山症候群でのキョンの謎の記憶(古風な格好をしたSOS団、異空間) 刊行順 ←第4巻『涼宮ハルヒの消失』↑第5巻『涼宮ハルヒの暴走]』↑第6巻『涼宮ハルヒの動揺』→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2816.html
その日がいつであったかは思い出せない。ただ何となく印象的な日だった。 いつものように変わらない部室で、変わらない日常を送っていただけだ。日々のどか、時々ハルヒ、ただそれだけだ。 そしてその日はどちらかというとのどかな部類に入るのだろう。俺たちは部室でいつもの役割を果たしていた。ハルヒはグチグチいいながらパソコンにかじりつき、何かまた予定を立てようとしている。どうせろくでもない、と思う矢先にこちらに強烈な眼光が飛ぶ。 やれやれ、人の気持ちを読む能力でも持っているのか?こいつは。 無言でまたパソコンに向き直るハルヒをよそ目に、俺はお決まりのカードゲームを古泉としていた。そして朝比奈さんは横であみもの、長門は読書。 いつもとほとんど同じ。ただ何となく話していた話題が家族の事に及んだだけだ。話しているのは主に俺、古泉、たまに朝比奈さん、長門は短い返答をよこすだけだ。 始めは親の趣味やら簡単な親族自慢、自分の位置づけなどなど。古泉と朝比奈さんの話はおおよそほとんど作り話だろう。まず第一に小泉は小泉八雲の子孫な訳はないし、朝比奈さんは話すまえに「ええっとぉ」と人差し指を唇にあてながら数分悩んだ末に話している。所々話に辻褄があっていなかったですよ、朝比奈さんとつっこんでやりたい位だった。 長門はただ「いる。」とか「少しは。」とかこっちからの質問に答えるだけだ。無論宇宙の話は出てこない。考えるまでもなくただの嘘っぱちだ。 結局本当の事を話すのは俺だけか。なんて思っていると、俺に朝比奈さんが問いかけてきた。 「キョン君のお父さんは、どんな人なんですか?」 この問いに答える時、俺は少しだけ躊躇する。そしてそんな躊躇した自分をたまに少し嫌になる。 「ほとんど覚えていませんね。」 一瞬の沈黙。 古泉は苦笑してカードに目を落としている。長門はページをめくる手を少し止めた後、又いつものように本を読み出した。一番驚いているのは、目を丸くする朝比奈さんのような気がする。 「え…」 やっぱり説明してやらなきゃならのかなぁ。 ふと周りを見渡す。朝比奈さんは少し目を潤ませ、古泉と長門はそのまま。団長が頬杖をついたまま、口を小さくOの字に空けてこっちを向いていた。そういえば、さっき小さく声を上げたのはハルヒだったような気がする。 「小学生中学年くらいのときに震災にあって、その時に父親は瓦礫の下敷きになって死んだんですよ。だから、俺の中で父親のはっきりとした記憶はないんです。不思議なものですよね、それくらい大きくなっているんだったら、少しくらいはっきり覚えていてもいいような…。でも、何でか中学高校とくるうちに記憶が遠のいてしまって。」 しゃべり終わっても、周りにこれといった動きは無かった。ただ朝比奈さんだけが明らかに動揺して、 「あの、ええと、じゃあ…」 といっておどおど手首を口元で返していた。ようやく言葉を思いついたのか、小さく言った。 「すいません、ごめんなさい。私、そんな事教えて…知らなくて」 「いえ、いいんですよ。」 少し笑って答えられた。俺も少しは大人になれたのかな? 「仕方ないことなんです。別に親父が悪い訳でも、誰が悪い訳でもない。実際、保険金も何とか下りて、母親も実はそこそこ稼ぎをもっているんで、生活は安定してるんですよ。」 ああ、うう…といいながら朝比奈さんは泣きそうになっている。 本当に、この人は優しいんだな、なんて思った。 「じゃああんたは」 と唐突にハルヒはいった。 「父親を入れた、一家の団欒とかも何も覚えちゃいないの?」 こいつにぶしつけに言われると、俺はなんかムっとする。 「ああ」 適当な感じを出しつつ答えておく。 「父親と遊んだ事も?」 「ああ」 「しかられた事も?」 「ああ」 「誉められた事も?」 「ああ」 「じゃあ、例えば…」 「おい、ハルヒ」 少し最後は低い声で答えた。 「何でお前にそんな詮索を受けなきゃならないんだ?」 「それは、その、…私は団長だから、」 ムスっと唇を突き出すまではいつもと同じだが、また「団長なんだし…」と言ったきり押し黙ってしまった。 「団長だったら、人の過去を洗いざらいしゃべらせてもいいのか?」 「そんなんじゃないわ、私はただ団員の精神状況を把握したくて」 そんなもん把握してどうする気だ。 「団員が正常かどうか判断するのは、団長の役目なの!」 じゃあお前は何か?俺は父親が早くに亡くなった事で何か妙な異変を持ってしまったとでもいうのか?俺は割と普通に今までやってきたつもりだし、実際お前に比べれば全然事件なんざ起こしちゃいない。俺はきわめてまともだ。 「そういう意味じゃないわ!」 「じゃあどういう意味だ?」 「キョン君」 気づくと朝比奈さんが後ろで、困った顔をフルフルと振っていた。 「お二人とも、冷静になってください。」と付け加えるように古泉が言った。 俺はきわめて冷静なつもりだがね。 「嘘よ」 ハルヒは憮然としていう。手を腰に当てて立ち上がっていた。 「あなたがみくるちゃんにしゃべっている時、何だか不自然だったもの。何よ、無理して笑って、声色まで変えようとして」 ハルヒの言葉の端々が俺の心にとげをさすようだった。何故だろう、ふつふつと言葉で表しづらい感情がこみ上げて来るようだ。 「本当はつらいんじゃないの?」 「違う!」と言いたい衝動にかられた。そのかわり俺はギュッと唇をむすぶ。 「悲しいんじゃないの?」 こいつはなんのつもりなんだ? 古泉が「涼宮さん」と言い掛けるとそれを静止するように奴は言い放とうとした。 「本当は父親にいて欲しいって」 「ハルヒ!」 俺は叫んでたちあがっていた。 一歩大きく踏み込んでハルヒに向かい手を振りかざそうとする。 振りかざせない。 気づくと長門が俺の手を止めていた。いつぞやかの高速移動か。 無言で大きな瞳を俺にむけている。 そして、搾り出すようにして小さく言った。 「ダメ…」 俺にしか気づけない悲しそうな表情を読み取り、俺はふと我に返った。 その時には、朝比奈さんが何事か泣きつついいながら俺の足元にしがみついていた。古泉は微笑をくずして真顔で俺を見据えている。 「何よあんた!」 事件の当事者が俺の目の前にやってきて、ふんぞり返った。 「団員のくせに私にたてつく気!?」 少しは落ち着いたが、以前俺は感情の高ぶりの中にいる。後少しで殺意がにじみそうな目で、目の前の女を見据えた。 「あぁ!だったらどうした?」 「そ、そんなに…」 珍しく言いよどむハルヒ。その言葉がいかにも弱弱しく、俺から敵意が消えた。 そしてその顔を至近距離で感情抜きに見たとき、俺はある事に気付いた。ハルヒが少し涙ぐんでいる。 「もう、知らない!」 そういって俺を避けて足早に部室を後にした。 その後の事になる。部室にはハルヒ以外のいつもの面子が少々落ち着かない様子でいる。 俺は泣き止んだ朝比奈さんの出してくれたお茶を飲みながら、さっきの事を回想した。 なんだ、結局俺は… 「これで二度目ですよ?」 古泉が少しきつい口調で言った。 「確かに、あなたの気持ちは分かります。それにこちらもその事情は事前に調べていましたから、もっと上手く止めに入るべきだったでしょう。そして、僕はあなたの気持ちが実際ちゃんと把握できている気でいます。」 そういってため息をつく。 「僕も似たような境遇ですから」 …それは初耳だな。 「別に涼宮さんはあなたに害意があっていった訳じゃなく、彼女なりに気にしてしたからです。あなただって再三に渡ってそういってきたじゃないですか、涼宮さんに人を害して喜ぶ気質があるわけがないと。あの人はあなたに対しては丁寧になれない。だからあんなぶしつけな言い方になるだけで、あれが彼女流の気にする仕方なんです。」 ああそうかい、別に気にされてもうれしくないね。自身五体満足な上に家族までちゃんとそろっていながら、それで何が気に食わんのか異常パワーで世の中ひん曲げながる奴に、俺の気持ちが分かる訳がない。 「気づいていらっしゃらなかった訳ですね」 一体何にだ。 「…」 古泉が珍しく間を貯める。 「この事をあなたに告げるべきかどうか、機関では議論が分かれていました。僕らもつい最近知ったことですから」 だから、一体何をだ? 「知ったら、後悔しますよ。」 そんな事は聞いてみないと分からない。俺の後悔までお前に心配してもらう必要などまるでない。 そう俺が言うと、古泉は軽く目を閉じ、そして目を見開き決意したように言った。 「涼宮さんのお父さんは、あなたと同じように亡くなられております。」 俺はその言葉に脳天をつんざくような衝撃を感じた。一瞬で頭が真っ白になったような気分だ。 「私達の機関には涼宮さんの夢を担当して調べている人間がいます。その担当者達が夢の内容を正確に吟味した結果、さらに新たな事実が発覚したのです。」 一同が古泉を凝視した。 「涼宮さんのお父さんが亡くなられた事が、僕らが言った三年前の事件そのものなんです」 しばらく間を置いて、朝比奈さんが軽く引きつるような悲鳴を上げたのが聞こえた。 「恐らく涼宮さんがあなたをこの団に引き入れたのは、その事からでしょう。あなたから同じ匂いのようなものを感じたのです。そして、だから…」 ふっと、古泉が息を漏らす 「あなたなら、自分を理解してくれると本能的に思ったのでしょう。」 俺は混乱する頭を抱えながら、必死に状況を整理しようとした。 だが、あいつは、単純にこの世をおもしろくないと思ったから変な能力を身に着けてしまったんじゃないのか? 「確かにそれも引き金の一つのようです。ただ、その悩みの最中、認めたくない父親の死という出来事が起こってしまった。そしてまだ幼い自分は何もできない。そこで彼女の混乱はエスカレートした。中学校の頃のエキセントリックさは、それを引きづったものなのです」 確か「私は待っているだけの女じゃない」、ハルヒはそういった。 「何もしなければ状況はますます悪くなる、彼女の最初の思い込みです。そしてトラウマになった記憶を思い出したくない。それ故に何者にも過去を遡らせない能力を持った。はたまた、多くの過程を経て、恐るべき思い込みが世を変える能力を生み出していった」 「あなたの話は正しくはない」 長門が急にいった。 「ただ、それに準じた可能性はある」 「僕は一つの仮説をいっているだけに過ぎません。」 そこから先の話は知らない。なぜなら俺は部室を飛び出していた。驚く部員をそっちのけ、俺はこんな話を聞いている場合じゃない事に気付いたのだ。 ハルヒを探した。俺はあらゆる校舎を駆け巡り、グランドをすみまで見渡した。そうこうしている内にやっと見つかった。 ハルヒは、俺がいつぞやかにしょっ引かれた屋上につながる階段にいた。 息を切らし、俺はあいつを見る。 しばらくすると、そんな俺に気付いてハルヒは俺を見た。 何て事だ! ハルヒは泣いていた。こんな悲しい顔をしたあいつを見た事はなかった。そしてそれは、俺の一番見たくないハルヒの顔なんだと自覚した。 俺達はしばらく無言のままだった。夕日が差す中、そしてやっと俺は言うべき言葉を思い出した。 「すまない」 真っ先にそういった。 「本当に…」 古泉から詳しい事情を聞いた事を言うべきだろうか?いや、それは不自然すぎる。勘のいいハルヒなら何でそんな事を古泉が知れるのか見破ってしまうかもしれない。 それよりも、言葉で何かいうよりも… そんな事を思いながら、俺はハルヒに近づいていた。 最初はそこからどうする気もなかった。ただ近づかねばならないような気がしただけだ。 そして… ゆっくりハルヒを抱きしめた。 ハルヒもそれに任せていた。思った以上に小さい肩が、腕のなかで確かな感触を俺に伝えていた。 それからどれ位たっただろう。ハルヒの涙をぬぐってやると、俺はあいつをひとまず部室につれてきてやった。 だがそこには誰もいなかった。だが今の俺達にはその方が都合いいような気がした。皆が気を利かせたということだろうか。 そして俺達は言葉すくなに帰り道をたどった。ハルヒは顔を下に向けていて、表情をみせない。そのままずっと歩き続け、別れ際になって初めて 「私のほうもごめん」 そうハルヒが言った。 「事情は分かっちゃったんでしょうね。あんなに取り乱した訳だし」 俺は黙っていた。 風が俺とハルヒの間を通り抜ける。その吹きぬける音が消えたとき、ハルヒはつぶやいだ。 「許してくれる?」 顔を下に向けながら俺に聞いた。答えなんて始めから決まっている。 「ああ」 今度は、ちゃんと相手に届くように言った。 もう、お前の事を責める気なんかありはしない。 「うっ」 と少し嗚咽しながら、ハルヒは顔を見せないように俺の肩に顔を埋めた。 するにまかせながら、俺は今度は、朝比奈さんの時のように動揺しないでそこに佇んだ。幸い人通りもなかった。 どれ位時間が経っただろう、俺達は別れて道を進んだ。 そして次の日の朝、あいつはいつものように俺の後ろの席にいた。俺がはいって来るのを一瞥すると、すぐに雲に見入った。 一応声をかけてやる。 「気分はどうだ?」 目だけを動かし「ふぅ」とハルヒは息をはいて 「何その聞き方?…普通に決まってるじゃない」 そっけなく答えてまた雲に見入る。 やれやれ、またいつもと同じか。 でも分かっている。何かは変わった。 俺とハルヒの間にある壁、それはもう今は存在していない。
https://w.atwiki.jp/haruhipsp/pages/17.html
夜にハルヒと会話しSOS会話を発生させさえすれば、失敗しても、次へいける。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5168.html
涼宮ハルヒの明日の続編です。 「……と言う小説を執筆する予定。許可を」 って、おぉい!!!ちょっと待ってくれ、長門!! なんで俺が死ななきゃならんのか、きちんと詳しく事細かに説明してくれ!! 「…物語の展開上の必然。 あなたが死んでくれた方が読者の共感を呼び易く、好都合」 俺が死んでくれた方が好都合ってドサクサに紛れて 結構、酷い事を言っちゃってますよ、長門さん…。 「…そう」 『…そう』じゃねぇ!!しかも、なんで皆の名前は若干、変わってるのに 俺だけ『キョン』のまんまなんだよ…ハルヒはハルヒで… 「ちょっとこれ、何なのよ!?有希!! 別にキョンがどうなろうとそこは構わないとして…」 いやいやいや、ハルヒ!どうでもよくはないだろ?そこは!! 「なんで私とキョンなんかがこんなちょ、ちょっと… 微妙な、変な感じの関係になっちゃってんのよ!?」 「…大丈夫。問題は無い。皆、認知しているから」 何を!? 長門は不思議そうに首を傾げている。 「…駄目?」 「駄目っ!!」 俺とハルヒ、2人同時に駄目出しを受けて却下された為だろうか、 長門が少しいじけているように見えるのは気のせいか。 長門が椅子に座る瞬間に 「…有機生命体の死の概念が理解出来ない」 と、ぽつりと呟いた台詞が耳を離れない… 怖いよ…長門、お前が言うと冗談に聞こえないから…。 そう、俺達は次の文芸部の会誌に載せる作品作りの為、 文芸部員として、冬休みを返上して『編集長・涼宮ハルヒ』のもと、 それぞれの作品の企画作りを遂行している。 例のごとく、それぞれの課題をくじ引きで決めたのだが、 今回の長門は多くは甘酸っぱさとほろ苦さをふんだんてんこ盛りに兼ね備えた 青春群像劇ものを引き当てたのだが…長門にとっては苦手なジャンルなのだろう、 何故、あんなストーリーになっちまったのかは俺には理解しかねる。 「長門さんの作品、そんなに悪いようには思えませんが…」 古泉はニヤニヤしながら俺の顔を見ている。何だよ? 「そういうお前はどうなんだ?古泉。ちったぁマシな作品は出来そうなのか?」 「えぇ、去年のあなたの恋愛小説には負けられませんからね」 そりゃ嫌みか? 「推理小説ですからね、トリックの発想次第なのですが…」 そりゃ理系のお前さんらしい実に論理的な作品になりそうだ。 朝比奈さんは受験の為、今回の企画作りには参加していないのだが、 1年前からハマっていたのか、もうすでに童話の作品を書き溜めているらしく、 「自信作を置いておきますので皆さんで読んでみて下さ~い♪」 と、机の上にアルプス山脈の如く、積み上げていった。 しかも、イラスト付きらしい。 「さすが我がSOS団のマスコットキャラ。萌えツボを心得た仕上がりだわ」 と、編集長は妙な唸り声を上げている。 その唸り声を上げている当の編集長、ハルヒは 当初の割り振りでは社会悪に迫るノンフィクション作品だったのだが、 電波なSFものになったり、悪の秘密結社と闘うヒーローものになったり、 いつも書く度に脱線していってる。ハルヒ曰く、 「これくらい飛んでる設定の方が面白いじゃない!!」 と言う意見らしい。 俺はと言うと、今年もどうやら恋愛小説を書かなければいけないみたいだ… しかし、何も思い浮かばん!!そして、眠い!! これはピンチだ…恋愛ものなんて去年でほとんど出尽くした感がある…。 それこそ、健全健康たる男子高校生が日夜、頭に浮かんでは消える 妄想をそのまま書くという手もあるが、そんな事をした日にゃ 二度とこの学校には顔を出せなくなる。 そして、恐らく学校中の女性と口を聞くどころか 相手にもしてもらえなくなるだろう。 そうなっちまったら俺の高校生活はまさに閉鎖空間だ。 その時、携帯が震えた。メールみたいだ。 From:佐々木 タイトル:無題 本文:やぁ、キョン。今夜、時間はあるかい? まぁ、キョンは頼み事を断れない性格だから きっとOKしてくれるんだろうけどさ。 場所はいつもの公園に8時だ。 もし、涼宮さんと何か用事があるのなら 僕に遠慮はしないでくれたまえ。 断ってもらっても構わないよ。 ハルヒ?別に今日はこの後、用事も無いし、まぁ佐々木だから別に良いだろ… 俺は軽くOKの返事を出した。 「ちょっとキョン!!あんた、企画もろくに出さないで 何、携帯いじってサボってんのよ!?」 編集長の怒鳴り声が耳をつんざく。 「いや、サボってる訳じゃなくてな、 今年も恋愛もので正直、何のアイデアも思い浮かばないんだよ… そんなに経験豊富という訳でもないしな」 ハルヒが俺の顔をジッと睨みつけてきている。 何をそんなにジッと見ているんだ?俺の顔に何か付いてるのか? 「本当にそうだとしたらあんた、寂しい青春送ってんのね」 放っといてくれ。 「そういうハルヒは何かアイデア浮かんだのか?」 「私はノーベル文学賞も狙えるくらいの現代社会の暗部にメスを入れた 一大スペクタクルな社会派傑作になる予定よ!!」 「予定って事はハルヒもまだ何も思い浮かんでないんだな?」 グッと唇を尖らせたハルヒの顔を見て、つい悪戯心が芽生えて、 皮肉たっぷりに溜息をついてやった。 「まぁ、編集長には期待してるよ」 「フンッ!!」 ハルヒはそっぽを向いた。 「ところでキョン、今夜、暇?」 ハルヒは腕を組んで見下ろしている。 「どうした?」 「どうしたもこうしたもないでしょ!?あんたが何も思い浮かばないって言うから 本屋にでも回って団長としてネタ探しに付き合ってあげんのよ!! 何か資料かヒントでもあったら参考になるでしょ!?」 古泉はニヤニヤと笑っている。何がおかしいんだ? 「い、いや、今夜はちょっと…」 そう断ると、その瞬間ハルヒの顔に暗い影が差した。 古泉にも強い視線を投げ掛けられた気がする。 でもな、ちょっと待ってくれ。今回はちゃんと先約があるんだ。 確かにハルヒのご機嫌を損ねると世界がとんでもない事態に巻き込まれる という事はこれまでの色々な騒動のお陰で十二分に承知しているつもりだ。 だが、それでハルヒの全てを優先する訳にはいくまい。 佐々木にも一度OKを出してやっぱダメと言うのはあまりにも身勝手な行為だ。 ハルヒを守る為に他の誰かを傷つけるというのはそれは人として違うだろう? 要は順番、順序の問題だ。 「まぁ、明日なら大丈夫だけどハルヒはどうだ?」 「あんた、自分の都合に合わせて私に命令する気!?」 ハルヒはいつも俺にそうしてるじゃないか… 「じゃあ、明日でも良いわよ!!その代わり、ろくなアイデア出ないようなら 正月返上で合宿するからね!!」 何でだよ… 結局、その日は何も思い浮かぶ事なく、長門の本日終了の合図で解散となった。 冬は陽が落ちるのが早い。 暗い坂道を4人でトボトボと歩いていた。 そういや、佐々木の用事って何なんだろうな? しばらく音沙汰なかったと思ったら突然、メール寄越したり、 また何か厄介な問題を引っ張って来るんじゃなかろうな… 古泉は俺に何か言いたげな顔をしているが…何だよ? 「では、僕らはこのへんで」 古泉と長門は去って行った。 ハルヒと2人でボーッと道を歩いている。 今日のハルヒは大人しい。 と言うか、さっきから一言も口を聞いていない。 「どうした?」 ハルヒの顔を見ようとしても日が沈んで暗いのと 髪の毛で顔が隠れていてよく見えない。 「…何が?」 「今日は随分と大人しいじゃないか?」 「うっさいわね…別に良いでしょ」 「…そうか」 気まずい沈黙が流れる。 「…私、帰る」 ハルヒはそう言うといつもと違う道を曲がっていった。 理由は分からんが多分、閉鎖空間発生なんだろうな。お疲れ、古泉…。 一度家に帰って夕飯を食べてから行こうかどうか迷う微妙な時間だった。 今日は雪で路面が凍っていたので自転車には乗ってきていない。 まぁ、飯は後で良いか。 そんな事を考えながら1人で歩くと白い息が身も心も冷やしていく。 そう言えば、1人で歩いたのって久し振りな気がする。 いつもハルヒやSOS団の誰かと一緒にいた。 SOS団の仲間と過ごした時間の濃密さを感じる。 少し早いかと思いつつ、佐々木と俺の家のちょうど中間に位置する 公園へと辿り着いた。 中学生の頃はよくここで色々な取り留めの無い話をしながら時間を潰していた。 「キョン!」 30分前だと言うのに佐々木はもう公園のベンチに座っていた。 「早いな、お前、いつからここにいたんだ?風邪引くぞ」 「くっくっ、大した時間ではないさ。僕に無用な気遣いはしないでくれたまえ」 「今日は1人か?」 あのやたらムカつく未来人や敵意むき出しの超能力者、 会話不能な幽霊みたいな宇宙人がいたらうんざりする所だ。 「おや?僕一人ではご不満かい?」 「いや、むしろお前だけの方が良い」 佐々木はニッコリと笑った。 「まるでプロポーズでも受けるみたいではないか?」 「馬鹿、からかうな」 それから佐々木と他愛の無い話をした。 別になんて事はない、お互いに期末テストはどうだっただの クリスマスはどうしただの、今日はこんな事をやってあんな事があった、 中学時代の想い出、大した話はない、 久し振りにあった旧友と昔に戻ったようなリラックスした笑い話をしていた。 ふと会話が途切れた瞬間に切り出してみた。 「今日はどうした?」 いつも強く俺を見据えて来る佐々木が珍しく俺から目を逸らした。 「さて、どうしたんだろうね、僕は」 俺達はこんな真冬の公園で禅問答をしにきたのか? 「これを気紛れとでも言うのだろうか?久し振りにキョンと話をしたくなったのさ」 「まぁ、そりゃ別に構わんが…悩みやストレスがあるなら 抱えずにどっかに出した方が精神衛生上よろしいと昔、言ってたのはお前だぞ」 「キョンは鈍感な割には時々、一周遅れで核心を突いてくるから面白い」 佐々木はサバサバしているようで意外と一人で悩みを抱えるタイプだからな… 「ところでキョンには悩みなんてものはないのかい?」 俺?俺にはそうだな…まぁ、色々とあるっちゃあるが… とりあえず目先のものとしては、 「恋愛小説のアイデアが思い浮かばない」 なんて佐々木に相談しても仕方が無いな…こいつもハルヒ同様、 『恋愛感情なんてものは精神病の一種』主義者だからな。 「くっくっ…なんだい?それは。君は時々、突拍子も無い事を言い出すから 本当にいつも予想の範疇を超えているよ」 やっぱり言うんじゃなかった…俺は日記にポエム書いてる夢見る乙女かよ。 「まぁ、聞いてくれたまえ。橘京子って覚えているかい?」 あぁ、あの佐々木の傍にいる面倒臭そうな超能力者だな。 「彼女がね、ここ最近、以前にも増して煩くってね。 涼宮さんの持つ世界を改変させる力は本来、僕が持つべきものだ、 世界をあるべき姿にしなければならないと、こう僕の耳元で急き立てるのさ」 「あぁ」 「僕としては正直、そんなものはどうでも良い瑣末な事柄と認識しているのだが、 彼女は僕のそういう姿勢や態度も含めて色々とご不満があるらしい」 ハルヒみたいな力を手に入れたらそれはそれで 周りの人間も色々と大変なんだがな…。 「そして、キョン、君にもね」 「俺?」 「橘さんにとってキョンは涼宮さん側についてる人間としての敵、そして女の敵らしい」 女の敵って…俺は女性にそんな酷い事をした覚えはないのだが… 「くっくっ、呆れているのかい?僕も驚いたがね。 キョンにはそんな女の敵だなんて言われるような記憶も自覚もないという表情だね」 当たり前だ、まともに会話もした事のないような女に あんたは女の敵だと言われてもこちらとしてはリアクションの取りようもない。 「まぁ、キョンが女性をそんな手篭めに出来るような技術と精神構造を 持ち合わせているような人間ではないと言う事は僕もよく理解しているつもりだがね」 褒められてんのか、けなされてんのか、よく分からん… 「橘さんは僕に世界を自分の思い通りに変えたくはないのかと散々、講釈してくる。 それは僕だって世界に不満が無い訳ではない。人並みの欲望はあるつもりだ。 しかし、だからと言ってそれとこれとは別の話だ。 キョンの意思に反してまで君を巻き込むのは僕の意図する所ではないからね」 俺の意思? 「その力を得る為にはキョン、君の協力も必要なんだとさ」 協力っつってもなぁ… 「だから、橘さんは僕にキョンの意思を確かめてきてくれと、こう頼んできた訳さ」 「俺の意思を確かめるってどういう意味だ?大体、佐々木。 よくそんな面倒な話に付き合ってるな、以前のお前なら考えられん」 佐々木は少し含みのある微笑を向けてきた。 「僕にも少々、興味深い事柄だったものでね」 「で、その俺の意思を確かめたら大人しくなってくれるのか?」 「どうかな?それは未確認だった」 やれやれ… 「で、その橘さんとやらはこの地球の半分を埋め尽くす全人類の 半分を占める女の敵であるこの俺に一体全体、何をして欲しいんだ?」 佐々木は微笑を崩さずにジッとこちらを見据えている。 「僕とキョンに恋仲になって欲しいんだとさ」 は??? 「まぁ、所謂、恋愛関係というやつだね。驚いたかい?」 いやいやいや…何を言い出すんだ、こいつは。 あの面倒なとんちき超能力者、佐々木に何か吹き込むにせよ、勘違いも甚だしいぞ。 「くっくっ、鳩がバズーカ砲喰らったみたいな顔をしているね」 バズーカどころか大陸間弾頭ミサイルが顔面に直撃したような威力だ… 要は俺と佐々木に、その、なんだ…付き合えって言ってる訳だろ? そんな事、これまで考えもしなかった…。 大体、そんな事になってハルヒが何と言うか……いや、ハルヒは関係ないだろ! いや、関係あるのか?やばい…混乱してきた…頭の中がパニックで暴発しそうだ… 「お前は以前、『恋愛なんて精神病だ』なんて言ってなかったか?」 「くっくっ、ねぇキョン」 「…何だ?」 「今日、涼宮さんは非常に不機嫌ではなかったかい?」 な、なんで知ってるんだ!? 「やはり正解だね」 佐々木はパズルを解いた子供のような笑顔で笑っている。 「キョンは鈍感ではあるけど、その反面、素直で誠実だからね」 佐々木は自分の鼻を人差し指で差している。 「鼻の膨らみを見ればキョンが何を考えてるのかおおよその見当は付くのさ、 しばらく付き合えばね。 キョンは嘘はつけない、ついてもすぐにバレてしまうタイプなのだよ」 そ、そうだったのか…これからは気を付けよう…。 「くっくっ、涼宮さんも苦労している事だろう。なんせ相手は鈍いを通り越して、 ただ何も考えちゃいないだけなんだからさ」 どういう意味だ?ともかく、また一つデッカい悩みが増えちまった… 「それとね…『恋愛なんて精神病』って言葉には様々な意味合いが込められているのさ」 そんな雁字搦めの糸のパズルみたいな謎解きを一気に俺に与えないでくれ… 問題は一つずつしか解決出来ない性分なんだ…。 「今日の僕からの話はまぁ、そんな所さ。あぁ、あと返事はいつでも構わないよ。 取り急ぐ問題でもないしね、じっくり考えてくれたまえ」 佐々木は立ち上がりながら俺に笑いかけている。 「あとさっきキョンが言ってた恋愛小説、僕の事でも書けば良いのではないのかい?」 そう言いながら佐々木はくるりと背を向けて灯りも暗い夜の公園を歩き出した。 佐々木を家まで送っていくまでの道すがら、結局、大した会話もなかった。 帰宅しても夕飯を食べる気力すら起きない…どうせ飯も喉を通らないだろう。 ベッドに突っ伏して佐々木の言葉を思い出していた。 あいつはいつから俺にそんな感情を抱いていたんだ? つい最近になってか?いや、中学の頃からずっとだったんだろうか? 「キョンく~ん♪」 なんだ?我が妹よ、はさみでも借りに来たのか? あと、お兄ちゃんの部屋に入る前にはちゃんとノックをしなさい! 部屋の中で何やってるか分かんないでしょうが!? トラウマになって兄妹仲が壊れちゃうかもしれないぞ!! 「キョンくん、恋煩い?」 なんでそんな一発で核心を突いてくるんだよ… 「キョンくんがご飯食べないのなんて珍しいもんね、何だったら私が相談に乗るよ♪」 小学生に恋愛相談、持ちかけてもな… 「大丈夫、ちょっと風邪気味なだけだ」 妹は首を傾げている。 「ふ~ん…やっぱり恋煩いなんだね♪」 あ、しまった…鼻か… 「パパとママには風邪って事にしといたげるよ♪高校生!」 やれやれ… そうだ。ここはとりあえず明日、誰かに相談しよう、そうしよう。 「おや?珍しいですね?それで僕に相談事とは何でしょうか?」 真っ先にこの古泉の顔しか思い浮かばなかった俺の人間関係はどうなんだろうか? 谷口は論外、国木田という手もあるが、問題は恋愛の話だけじゃないからな。 それに不本意だが、古泉は無駄にモテる、女の扱いには慣れていそうだ。 良い答えを出してくれそうな気がする。 冬休みの学校は静かで昼時と言えども誰もいない。 「昨日は大変だったのか?」 昨日のハルヒはえらい不機嫌だったからな。 「いえ、それほどではありませんでしたよ」 そうか、そりゃ良かった。 「ところで古泉…」 「色恋沙汰ですか…」 まだ何も言ってないぞ!! 「まぁ、付き合いも長くなってきましたからね、大体分かりますよ」 これも鼻か?俺の鼻は一体、どうなってるんだ? 俺は事の顛末を古泉に語った。古泉は意味ありげに頷いている。 「それは……実に複雑且つ、重大な問題ですね」 そうなんだよ…俺にとっちゃ世界中の知恵の輪を全て絡み合わせたような問題だ。 「…あなたはどうしたいんですか?」 え?俺? 「機関の人間としての僕は涼宮さんを選んでもらいたいとは思います。 勿論、同じSOS団の仲間としてもね。 しかし、あなたの友人としての僕はそこまで強制したくはありません。 あなたの想いまで無理矢理、ねじ曲げたりはしたくありませんから。 あなたがどちらを選ぶか、そう、どちらに女性としての魅力を感じるか、 問題はそこですね。 自分の想いに素直になるしかありませんし、逃げる事も出来ません。 あなた自身が答えを出すしかないでしょう」 古泉に相談料として自販機でコーヒーを奢っていると テンションの高い声が降り掛かってきた。 「おんや~!お二人さん、何やってんだい!?冬休みにまでラブラブっさね!」 変な誤解をされるような事を大声で言わないで下さい、鶴屋さん…。 「SOS団の合宿ですね♪お二人でお昼ですか~?」 あなたのそのプリティーなオーラは霜の降りた中庭も 全て溶かしてたんぽぽ咲かせちゃいますよ、朝比奈さん♪ 「それでは僕はこのへんで」 古泉は軽く会釈をして一人、部室棟へと向かっていった。 「朝比奈さんと鶴屋さんは今日はどうなさったんですか?」 「今日はクラスメイトの皆で集まって受験のお勉強してたんです♪」 鶴屋さんが俺の肩に手を掛けてきた。 「ハッハ~ン…キョン君、恋の悩みだね!」 またか!?鼻!! 「とうとう付き合う事になったのかい!?それともこれから告白!? どっちからにょろ!?告白するの!?したの!?されたの!?」 滅茶苦茶、興味本位ですね…鶴屋さん。 「やっぱりそこは男の子からですよね~♪」 いいえ、女性からでした。 そうだ、女性ならではの視点から、というのもあるな…相談してみるか。 二人に相談すると、さっきまでハイテンションとは打って変わり、 予想以上に複雑な物凄く重~い空気になった…。 何なんだ、これは一体? 「キョン君、それは酷いっさ…重過ぎるにょろ… 受験勉強に悪影響っさ…大学受験に失敗したらキョンくんのせいにょろよ?」 こんなに沈んだ鶴屋さんは初めてだ…。 「涼宮さんも佐々木さんも可哀想…キョンくんがこれまでずっと はっきりしない態度のままでいたからどちらかが傷つく事態になったんです。 2人とも純粋な想いなのに…キョンくん、最低です…」 俺も悩んでるんだが…女性の視点からすると俺の自業自得なのか? まさか朝比奈さんに最低とまで言われるとは…またちょっと泣きそうだ…。 「ともかく…もうこれは覚悟決めるしかないっさ」 「そうですね、曖昧なままだとまた同じような事が起こるでしょうし、 キョンくんの為にもならないですからね」 朝比奈さんと鶴屋さん、2人の眼光が野獣のように鋭く光っている。 「さぁ、キョンくんはどちらを選ぶにょろ…?」 「お二人のうちのどちらをキョンくんは選ぶんですか?」 あ…いや…その… 「どっち!!」 2人の叫び声が最後の審判を求めてきた。 ちゃんと答えははっきりさせますと、何とか2人の追及の逃れて、 部室に戻ると朝までは特に変わりのなかったハルヒは 昼休みを挟んで全く別人のように思いっきり俺を睨み据えて 噛み付いてきそうな勢いで座っていた。 「どうしたんだ?ハルヒ」 ハルヒは無言のまま、ダークでヘヴィーな邪悪の化身のようなオーラをまき散らしている。 何だ?俺、何かしたか?とりあえずここはあまり話し掛けない方が良さそうだが…。 「すみません…ちょっと急なバイトが入ってしまったようで」 古泉は俺をチラッと見るとそのまま部室をあとにした。 長門は淡々と小説を書いている。 ほとんど、このダークハルヒと二人っきりの空間に取り残されているようなもんだ…。 気まずい…こんな空気の中で小説を書くなんざ、とてもじゃないが無理だ… クリエイティヴなアイデアが思い浮かぶ空間とは思えない…。 その時、ハルヒがおもむろに立ち上がった。部室を出て行くようだ。 「おい、ハルヒ。どこ行くんだ?」 無神経に声を掛けた俺の失敗だった。 ハルヒは足を止め、恐ろしくドスの利いた低い声で 「…どこに行こうが私の勝手でしょうが」 と、睨みつけてきた。 メデューサに睨まれた俺はその場で石になった。 部室の扉が吹っ飛んで壊れそうな勢いで閉まった。 長門がこちらを見つめている。 「…行って」 追い掛けろって事か? 長門は無言で首を縦に振った。 追い掛けろってな…核弾頭の嵐の中に素っ裸で飛び込むようなもんだぞ…。 「…早く」 やれやれ…分かったよ…。 「おい!ハルヒ!」 ハルヒは走るのも速ければ歩くのも速い。 ハルヒの肩を掴むとようやく立ち止まってくれた。 「おい、ハルヒ。お前さっきから急にどうしたんだよ?」 「…離して」 ハルヒは振り返りもせずに答えた。 「いや、離せって、ハルヒ。いきなり理由もなく、どうしたんだ?体調でも…」 「…さっき、お昼ご飯買いに外に出た時に校門で橘さんって人と会った」 げ!? 「あの佐々木さんの知り合いでしょ?全部聞いた…」 「いや、だから、あれはだな……」 えぇ~っと…何をどこからどこまで話せば良いんだ? その時、ハルヒは肩に置いてある俺の手を取った。 殴られるか!?と、身構えると意外にもハルヒは俺の手をそっと下ろした。 「…ううん、大丈夫。キョンは何も言わなくても良いの…」 そういうハルヒの細い肩は震えていた。 「どうしちゃったんだろう?さっきから変だよね、私…。 …佐々木さんとキョンは昔からの付き合いでお互いに凄く分かり合ってるから …ひょっとして私、それが悔しいのかな?でもちょっと寂しかったり、悲しかったり… 自分でも怒りたいのか、泣きたいのか、よく分かんないの……」 ハルヒは俯いたまま、聞いた事もないような、か細い声を出している。 「…ごめんね、キョン。訳の分からない事ばかり言っちゃって」 そう言いながらハルヒは振り向き、俺にいつもの太陽のような笑顔を向けてきた。 「佐々木さんとキョンならお似合いだと思うわ! だから、あんたの勝手で好きなようにどこへなりとも行きなさい!! いつもみたいにボーッとしてたら捨てられちゃうわよ!」 ハルヒはそう言い残すとどこかへ走り去って行った… SOS団の皆で楽しい事をしている時に見せるような いつものハルヒの満面の笑みが余計に俺の心に突き刺さった――― もう答えは決まっていたのかもしれない… 自分の中ではもう分かっていた事なのに友達以上恋人未満の楽な関係に満足していた。 ハルヒに対しても…佐々木に対しても… 「やぁ、キョン」 佐々木は冬休みだからだろう、連絡するとすぐに出てきた。 駅前は師走の忙しさに賑わっている。 「ひょっとして昨日の答えかい?キョンにしては珍しく問題を解くのが早いね」 あぁ、難解極まり無い大問題だったけどな。 「まぁ、僕もあれから色々考えたのさ。他人の意見を鵜呑みにして 自らの考察を怠るのは進歩を止めると言う事に繋がるからね」 考察の結果はどんなもんが出たんだ? 「きっと僕はね、嫉妬していたのさ、涼宮さんにね」 嫉妬? 「僕の中学時代はね、キョン、君との時代だと言っても過言ではない。 それほど君とは長く濃密な時間を過ごしてきたからね」 まぁ、それは俺もそうだからな。 「しかし、その時間はあくまで過去のものにしか過ぎないのさ。 人は想い出に浸るだけでは進歩はない。常に今を生き、未来へと歩を進めなければね」 佐々木の髪が風で舞い上がる。 「キョンにとって、僕との時間が過去とするならば、現在は涼宮さんとの時間。 そして現在は必然的に未来へと繋がっている。僕との時間は未来に繋がる事はない。 だからこそ僕は涼宮さんに嫉妬したのさ。そして不本意ながらも橘さんに促され、 涼宮さんの力も含めて、キョン、君を取り戻したい、君の傍にいたいと考えた。 君と僕との時間を過去のものではなく、未来へと繋がる現在の時間として 2人で動かしたいと考えた。 それを恋愛感情と呼ぶべきかどうかは、すまない、まだ考察不足だ。 差し当たってはキョン、君の意見も伺いたい所ではあるがまずは僕の結論から。 やはり僕は君と……」 私は一人、屋上で泣いた。 もうキョンはSOS団には戻って来ないだろう…… こういう時に限って楽しかった想い出ばかりが頭をよぎる…… もうちょっとだけで良いからキョンと一緒にいたかった…… そう思うとまた涙が勝手に溢れ出てきた。 冷たい冬の風に煽られて髪は乱れた。 屋上で泣いていたのはどれくらいの時間なのだろう? キョンを忘れる時間はどれくらいの時間なのだろう? いや、きっと無理だ…どんな形であれ、彼はもう私にとって一番大切な人になっている。 決して彼を忘れる事なんて出来ない… だから、私は何があってもずっとあなたを好きで居続ける… ありがとう、キョン――― 屋上で心を落ち着かせてから部室に戻るとみくるちゃんと古泉君がいた。 うん、よしよし、有希も筆が進んでいるようね。 さっ!どんどん書きましょう!キョン一人分くらい私がどうにかするわ! 今なら物凄い閃きがガンガン湧いてきそうな気がするのよね! 天才的な文学的才能が目覚めたのかしら! 時間たっぷりまで書き上げ、いつものように有希の本を閉じる音を 終了の合図に本日解散!! さっ!今日はもう暗いから皆で帰りましょう! 「あんた、ここで何やってんのよ!?なんでこんな所にいんのよ!?」 入り口の前で立ち尽くしている俺を見たハルヒは埴輪のような顔をして 呆気に取られ驚いていたかと思うと今度は俺に向かって叫んでいる…鼓膜破けるわ… 「何って?会誌に載せる小説の企画を考えなきゃならんだろ?」 ハルヒは顔を歪めて怒鳴り散らしてきた。 「そういう事聞いてんじゃないわよ!? なんであんたがここにいんのかって聞いてんの!?」 あぁ~…もうだからそんな大声出さんでも聞こえてるって…。 「ハルヒがさっき言ったんだろ?勝手にどこへなりとも俺の好きな所へ行けって。 だからここにいるんだよ」 ハルヒは笑ってるのか怒ってるのか顔を歪めているが、 奥の長門といつの間にか部室にいる朝比奈さんと古泉はしたり顔でこちらを見ている。 「佐々木さんは!?」 「あぁ~…佐々木とはどんな形であれ他人に無理強いさせられるような 関係じゃないからな、断ってきた。 と言うか正確には断ろうとして呼び出したんだがな、向こうから 『やはり僕は君とだけはこんな無理強いするような形での関係はごめんだ』と断られた。 告白されて答えも伝えないうちにフラれるなんて、きっとこれはトラウマになるぞ…」 ハルヒはジーッと俺の顔を睨んでいたかと思うと納得したように頷いている。 「どうやら嘘はついていないようね…」 また鼻か…ハルヒまで分かってるとは…一度、俺の鼻がどうなってるのか誰かに聞こう… 「さっ!ハルヒ、行くぞ。」 俺はハルヒの手を取った。ハルヒはびっくりしながらも嬉しそうに笑っている。 「い、行くってどこへ!?」 おいおい、もう忘れたのかよ…。 「昨日、約束しただろ?放課後、一緒に恋愛小説のネタを探しに行こうって!!」 お前とならもっと面白い小説の続きが書けそうだよ―――― The End
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/256.html
「ねぇ、キョン。駆け落ちしよっか?」 朝っぱらから物思いに耽っていると思ったら・・・何を言い出すんだ、コイツは。 ”駆け落ち”なんていう言葉は、お互いを愛し合っているが結ばれない運命にある二人がその運命を打ち破るためにだな。 「あたしとさ、樹海に行かない?」 しかも、死ぬこと前提でかよ。 頬杖つきながら、ぼーっとした顔で空を眺めんでくれ。 俺はいつも馬鹿みたいにテンション高いお前しか知らんのだ。 そんな違う一面を見せられたら、したくなくても『なぜか』動揺してしまう。 「ねぇ、聞いてるの?」 頬杖を止めてこちらを向いたハルヒの眉がキリキリと上がる。 これでこそ、俺の知っているハルヒだ。 論理的な思考型な俺は、理由を聞いてから何事にも答えるようにしているが、 ハルヒは突飛なことを言う割りにその理由を聞かれると不機嫌になるし、答えようとはしない。 『駆け落ちしよっか?』って言った理由をハルヒに聞くのはナンセンスだ。 …だが、聞いてしまう。 だって、それが俺の思考パターンだからだ。 「聞いてたけど、どうしてまた駆け落ちなんだ?・・・その前にどうして俺なんだ?」 こいつはいつも主語と述語が抜ける。そして、その経緯、説明もない。 まるで”私の思考はアンタには伝わってるから、説明しなくてもいいのよ”みたいな。 あいにく俺は、古泉みたいに超能力者でもないから相手の思考を読み取ったりできない。 …ってアイツは閉鎖空間の中でしか能力使えなかったか。 例えにもならないとは、本当に使えない奴だ。 「キョンなら、着いてきてくれると思ったの!」 恥ずかしそうに目線を外す・・・普通の女の子っぽい仕草も出来たんだな。 って、どうして俺なら着いてきてくれるなんて思ったんだ? 俺の思考を読み取ったかのようにハルヒが続けて口を開いた。 「だって、アタシのいう事素直に聞いてくれるんだもん。だから」 ちょっと待て。この際、俺の長所・性格・人物像は関係なしかよ。 どうみても、ハルヒの主観イメージだけじゃねぇか・・・ しかし、俺が安易に否定すればハルヒはまた不機嫌になるだろう。 古泉・長門・朝比奈さん(大)は口を揃えて、その事を忠告したけど、俺には関係ないし、 どうするかはハルヒ次第なのだから・・・ごく平凡一般の俺がとやかく言っても仕方がない。 まぁ、古泉の言っていたハルヒの言葉をできるだけ尊重するようにしてやんわりと話を流してみるか。 「お前がどうして『駆け落ち』だとか、『樹海に行きたい』とか言ったか分からんが、そんな事しなくても俺は3年間お前にこきつかわれる運命だ」 「いつ、何処で、何時、何分、何秒にアタシがアンタをコキ使いたいって言ったのよ!」 「お前の俺への態度を見たら、誰が見ても奴隷とご主人様みたいな関係に見えるぜ?」 ハルヒが何か言おうとしたので、トドメの一撃を刺しておこうと思う。 「でも、別にお前に使われるのは嫌いじゃない」 ちょっとでも、恥ずかしい台詞を言われるとあたふたして、柄にもなく論理的に否定したり、話変えたりするから この戦法はかなり有効なのだ。・・・しかも、実証済み。 すると、暫くハルヒは何か考え込んだ後、パチンと手を合わせて、俺を指差した。 「決めたっ!アタシに使われるのが好きなら、高校3年間と言わずその後も使ってあげるわ」 「・・・なーんて、事があったんだよ」 部室にて、古泉と将棋を指しながら今日の昼休みにあった事を話した。 …というか、どうしてコイツは手数掛かるのに穴熊作ろうとしてんだ?その間に攻め込まれたら終わりなのに。 「キョン君はまた仕出かしましたね」 なんて、真剣な台詞をにこやかに言う古泉。 続けて「僕のバイトもずっと続きそうですねぇ」なんて言いながら、ため息つきやがって。 「どういうことだよ?俺がなんかやったか?」 俺が質問を投げかけると、古泉は鼻の頭を撫でながらこう言った。 「涼宮さんは新たに思い込んでしまいました・・・いや、決意したと言ったところでしょう。彼女は言ったのでしょう? 『高校3年間と言わずその後も使ってあげるわ』と。その意味は分かりますか?その後とは彼女にとってどれぐらいの期間なんでしょうねぇ。 その言葉を推理して、最も現実的で実現可能な事となると・・・」 「なんだよ」 「キョン君。結婚式には呼んでくださいね。・・・あと、あなたは主夫に向いてますよ」 古泉がまたアホな事を言い出した。 こいつは、推理してるとき自分に酔っているんじゃないかと思うことがある。 推理に気を取られて、将棋がおざなりになっているのはコイツらしい。 「王手・・・はい、どうやっても詰みな。しかし、お前の例えはよく分からん」 「はは、負けちゃいましたね」 自分が負けたのにニコニコとしているのもコイツらしい。 さて、と。ハルヒが朝比奈さんの写真撮影を終えて帰ってくる前に、このフラッシュメモリにmikuruフォルダを移動させておくか。 将棋の片付けをしている古泉がポツリとこう言った。 「あなたは、涼宮さんにプロポーズしてOKされたんですよ。順序から言うと、涼宮さんがプロポーズして、あなたがOKしたというか」 なんて言いながら、クスクス笑う古泉。 今のお前相当キモイ悪いぞ。 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1604.html
古泉「機関では色々とイベントも行っています。」 キョン「ヘーソウナンダー。」 古泉「明日は賞金付きのサバイバルゲームが開催されます。賞金は300万円となってm」 キョン「待て。それはマジな話か。」 古泉「大マジです。ただ個人戦のみで参加料として一人5000円が必要なのと…」 キョン「…なのと?」 古泉「新川さんが全9回中8回優勝しています。」 キョン「なんか納得…って後の1回は誰だ?」 古泉「森さんです。」 キョン「!?」 結局俺はそのイベントに参加することにした。 なにしろ300万だぜ? まかり間違って勝ってみろ、これからしばらく、SOS団集会での奢りが楽にn ……俺は心底奴隷根性が身についてしまったのか? ハルヒ「というわけで! 優勝はSOS団がもらうわよ!」 キョン「個人戦だっつってんだろ」 ハルヒ「SOS団のメンバーなら、誰が勝ってもSOS団の勝利なのよ!」 キョン「そうかよ」 長門「……?」 キョン「おい長門、銃口を覗き込むな。使い方がわからないのか? 朝比奈さんは?」 みくる「あっ、あたしは一応、映画のときに……」 キョン「そういやそうだったな。長門、これはな……」 ハルヒ(む……なによ有希の手取り足取りしちゃって。むかつくなぁ) ハルヒ「あたしもよくわかんないんだけど」 谷口「ああん? しょうがねーな、俺が」 パンパンパン! 谷口「ぎゃー!」 ハルヒ「ふーん。なるほどね。こうすればいいんだ」 谷口「がはああ……至近弾を顔面かよ……」 パンパンパン! 谷口「ぎゃーーーー!」 長門「理解した。原始的武器をモデルにした玩具」 国木田「谷口、大丈夫?」 谷口「はぁはぁ、チャックを全開にしてなきゃ危ないところだったぜ」 新川「……大佐、これはどういうことだ?」 大佐「どうやら涼宮ハルヒが手下を引き連れて参加しているようだ。 せいぜい閉鎖空間が出来ない程度に楽しませてやるんだな」 新川「了解……それと大佐」 大佐「なんだ、スネーク」 新川「誰がスネークだ。それで……勝ってしまってもいいのだろう?」 大佐「……許可する」 古泉「ではこれより、第10回メタルギア争奪戦を開始します」 キョン「なんだそのメタルギアっつーのは」 みくる「そっ、そんな! 機関がそんなものを手に入れていたなんて……」 キョン「知ってるのかライデ……朝比奈さん」 みくる「詳しくは禁則事項ですが、凄い兵器です。歴史で習いました」 キョン「そんなものを奪い合うのか」 古泉「あ、ハリボテですし単なる雰囲気アイテムですからご心配なく。 ストーリーは南米の……」 ハルヒ「早くルール説明しなさい!」 古泉「失礼。簡単に説明しますと、最後の一人になるまで殺しあってもらいます」 キョン「結局バトルロワイアルかよ」 第10回メタルギア争奪戦ルール ルールその1:機関のことは口にするな。 ルールその2:機関のことは絶対に口にするな。 ルールその3:個人戦だ。誰も信用するな。 ルールその4:銃弾や刃が胴体・頭部に命中したものはデッド。 ルールその5:戦場のあちこちに武器が落ちている。使え。 ルールその6:敗者のアナルに関しては当局は一切保障しない。 谷口「まずは生き残ることを考えないとな……」 国木田「最後の二人になるまでチームプレイに徹すればいいんだね」 谷口「その通りだ。一人より二人が有利なのは絶対だからな」 国木田「おーけー。まかせてよ谷口。ところでチャックは閉めないの?」 谷口「よせよ。まだ始まったばかりだぜ?」 国木田「意味がわからないよ」 ハルヒ「よーし! いい? 同じ団員だからって遠慮なく撃つからね!」 キョン「まて。最初は協力し合ったほうが……」 ハルヒ「それじゃ散会! 次にあったときは敵同士よ!」 みくる「えっ、えっ!?」 キョン「だから待てって……もういねぇ! 長門もいねぇ! 古泉もいねぇ!」 みくる「ふぇえええ」 キョン「……しょうがない。朝比奈さん、しばらく二人で行動しましょう」 みくる「は、はい……よろしくお願いします」 ハルヒ(むっ……なんでみくるちゃんと一緒なのよっ! なんかむかつく……) キョンの妹「あ、ハルにゃーん」 ハルヒ「あら。妹も参加してたの?」 シャミセン「にゃあ」 ハルヒ「ふーん。それじゃあしばらく共闘する?」 キョンの妹「うん!」 11 23 05 ジャングル 長門「……」 多丸兄「ふっ……来たな宇宙人」 多丸弟「我らの変幻自在の攻撃に耐えられるかな?」 長門「……!」 多丸兄「アナル!」 多丸弟「ブレイク!」 パンパンパン! 長門の銃口が火を噴くが、弾丸は木の葉を散らすだけ。 多丸兄弟は木の上を飛び回り、ひとところにとどまろうとはしない。 しかも兄弟ゆえのコンビネーション、兄が前にいたかと思えば次の瞬間上から弟が攻める。 これが谷口であったなら瞬殺ものだが、しかしそこは長門、二方向からの攻撃に冷静に対処だ。 木の陰岩の陰を利用し、攻撃の方向を意図的に一方からに制限しはじめたのだ。 多丸兄「ほう」 多丸弟「さすがだな宇宙人」 多丸兄「だが防御ばかりでは勝てんぞ」 多丸弟「くっくっく……」 長門「……」 言うとおり、長門の放つ弾丸は多丸兄弟にいまだかすりもしない。 キョンから最初にインチキ禁止を言い渡され、長門の運動能力はハルヒと互角程度に抑えられているのだ。 長門は空になったマガジンを捨て、新たに弾丸を装填した。 最後のマガジンだ。これ以上の無駄弾は撃てない。 精密射撃は長門の得意とするところだが、動き回っているものに当てるのは思ったほど簡単ではない。 止まっているものになら――妙案が浮かんだ。 だが、やはり2対1の差は厳しい。せめて隙をつくことが出来れば―― 多丸兄「くくく、ジリ貧だな宇宙人!」 多丸弟「さあ、とどめだ……なに!?」 多丸兄「どうした弟よ!」 多丸弟「貴様はっ――ぐわあああああああ!」 木の上から落下する多丸弟。さきほどまで弟が立っていた枝には、長い髪を揺らす美少女が―― 多丸兄「仲間か――!」 好機。狙うならば今しかない。 多丸兄の声は、長門からは死角になっている木の陰から発せられている。 多丸兄が隠れているであろう場所から、空中に目視で線を引き、角度を計算し、狙いを定める。この間1.2秒。 長門「……!」 ぱん! かん! びしっ! 多丸兄「がっ!」 くぐもった呻き声を上げ、多丸兄も落ちていった。 側面の幹に当てた弾丸が跳ね返り、樹の陰に立っていた多丸兄のこめかみを打ち抜いたのだ。 長門「跳弾。わたしの勝ち」 長門が銃をおろす。そこへ先ほど多丸弟をナイフ(スポンジ製)で刺し倒した美少女――朝倉が駆け寄ってきた。 朝倉「やったわ、さすがわたしのリボルバーナガット!」 長門「……オートマチック」 谷口「なんか悲鳴が聞こえたな」 国木田「そうだね。誰か戦ってるのかも」 谷口「迂回しようぜ。少しでも生き延びて、チャンスを待つのが賢い戦い方だからな」 国木田「そうだね。ところでチャック……」 谷口「ちっ、川だ。向こう岸に渡るべきか、引き返すべきか……」 古泉「まさかあなたと鉢合わせするとは。『陰謀』に出てきた敵組織の少女さん」 誘拐少女「へえ……古泉さん、でしたっけ。はじめまして、でしょうか」 古泉「お互い写真では見たことがあるはずですがね。機関に敵対する組織の貴方がなぜこの大会に?」 誘拐少女「……組織の運営費が……その……零細なもので……」 古泉「……大変ですね」 誘拐少女「なので勝たせて欲しいのです」 古泉「アナルしだいですね」 誘拐少女「は?」 古泉「しかし、実は女性のアナルにはあまり興味がありませんでしたよ。そういうことで、さようなら」 誘拐少女「あ、ちょ」 パンパン。 古泉「さて、僕のキョンタンはどこにいったんでしょうねぇ……ふふふ」 キョン「ぞわー!」 みくる「キョンくん!? どうしたんですか?」 キョン「いや、なんだか……凄い寒気が」 みくる「だ、大丈夫ですか?」 キョン「まあ、気のせいですよ。しかし、ハルヒのやつどこにいったんだ。まったく……」 みくる(キョンくん、さっきから涼宮さんのことばっかり気にしてる……) 新川「こちらスネ……新川。市街地に侵入した」 大佐「よし。そこには喜緑とかいう宇宙人が既に待機しているはずだ。慎重に進め」 新川「了解。ダンボールのふりをする」 喜緑「なんだか長門さん達に変な大会に参加させられてしまいましたが……生徒会長?」 会長「まったくだな。古泉もわけのわからんことばかり……む?」 喜緑「どうかしましたか?」 会長「いや……あんなところにさっきまでダンボールなんかあったか?」 喜緑「さあ……」 ダンボール「……」 喜緑「ちょっと中を開けて見ましょうか」 ダンボール「……!」 喜緑「それ、がばっ」 パンパンパン! 喜緑「……無念」 会長「なっ、貴様は!」 ダンボール「ふっ……ネイキッド(全裸)新川参上」 会長「ま、まて! いったいなんの……」 新川(全裸)「正体を見られたからには仕方が無い。アナルをもらう」 会長「よ、よせっ、うわあああ! アナルだけは!! アナルだけは!!」 大佐「首尾はどうだスネーク」 新川「一名射殺、一名アナルショックだ大佐」 大佐「よし。アナルはビデオには収めたな? 後で見せてもらう」 新川「あんたも好きだな……」 大佐「ふっ」 12時。現在の脱落者がアナウンスされる。 新川「む……多丸兄弟が負けたのか」 大佐「長門有希だ。それともう一人、朝倉涼子……やはり強敵だな」 長門「……」 朝倉「まさか喜緑さんがやられるなんて」 長門「能力を制限すればありうる。気をつけて」 朝倉「まかせて。わたしは長門さんを勝たせるためだけにここにいるのだから」 古泉「……まさか会長のアナルを先に奪われるとは。僕も狙っていたのに……許せない! 会長のアナルを責められるのはそうはいない。きっと新川さんでしょう。……どうやら、 僕も本気で戦わないといけないようですね……」 みくる「誘拐少女って、もしかして……」 キョン「朝比奈さんを誘拐したヤツか。なんでそんなのまで参加してるんだよ」 みくる「ひょっとしてあの、怖い未来の人も……」 キョン「大丈夫ですよ朝比奈さん。どんなヤツが相手だろうと、俺が守ります」 みくる「キョンくん……」 ハルヒ(ぬあーーー!! なんでキョンとみくるちゃんがいい感じに見詰め合ってんのよ! 本当だったらそこにいるのはあたしでしょおっ!) 妹「どうしたのハルにゃん」 シャミセン「にゃあ」 ハルヒ「……なんでも。いきましょ」 妹「キョンくん撃たなくていーの? 撃ったら勝ちのゲームだよね?」 ハルヒ「……後でいいわよ、あんなやつ」 妹「?? はーい」 谷口「昼飯にしようぜ。うまいこと川で魚が釣れたからな」 国木田「まったく、チャック全開のおかげだね」 それは影としか表現できなかった。 密林の中を失踪する一塊の影。 漆黒のメイド服に身を包んだお下げの美女。 森園生―― 12 17 22 山岳地帯 ハルヒ「つり橋か……」 妹「ちょっと怖いねー」 ハルヒ「手をつないでわたりましょ」 妹「うん――」 ハルヒ「――!」 気配を感じてハルヒが銃を構えるよりも早く、 妹「――ハルにゃんっ!」 森の手にした刀が妹の首筋に触れていた。 ハルヒ「ちょ、そんな物騒なもの……!」 森「ご安心を。スポンジ製です」 妹「ハルにゃーん……」 ハルヒ「人質ってわけね……」 森「まさか。わたしが人質を取らなければあなたに勝てないとでも?」 妹「えっ――?」 森が刃を引き、妹はあっさりと脱落した。 ハルヒ「くっ――この!」 パンパンパンパン! 夢中で銃を撃つが、弾丸は全て宙へと消える。すでに森の姿はつり橋の上に無い。 ハルヒ「どこに――」 森「ここです」 ハルヒ「――!」 足元――! 反射的にハルヒは飛びのいた。 木製の橋を貫通し、下から刀が飛び出してくる。 ハルヒ「ちょ、ちょっと! スポンジじゃないの!?」 森「刀はスポンジ――切れるかどうかは、わたしの技術しだいでございましょう――」 ハルヒ「んなっ!?」 無茶苦茶な話だが、事実スポンジにしか見えない刃が分厚い木の板をぶち破って飛び出してくるのだから信じないわけには行かない。 一方ハルヒの弾丸は全て木の板に阻まれ、その裏にいる森には届きそうも無い。 ハルヒ「くっ、なんのゲームよこれっ!」 ザク! ザク! ザク! 橋の下から飛び出す刃を反射神経だけで回避しながら、ハルヒは毒づいた。 ハルヒ「あたしはドムが好きなの!」 ドムっ! ハルヒ「じゃあケンプファー!」 ゲスっ、ブっ、バァン! ハルヒ「無理があるわよっ!」 森「しかも音がアナルっぽいですね」 ハルヒ「し、しるかーーー! こうなったら一か八かよ! シャミセン、あたしの足を掴んで!」 シャミセン「にゃ、にゃあ!?」 ハルヒ「とりゃあああああ!」 シャミセンに脚をつかませ、つり橋から身を投げるハルヒ。 上下逆になったハルヒと、橋の下にしがみついている森の視線がぶつかる―― パンパンパン! 森「ちっ――!」 カンカンカン! 全ての銃弾を刀で弾き飛ばす森。 ハルヒ「くっ――シャミセン、引き上げて!」 シャミセン「にゃあ(無理)」 ハルヒ「ひゃああああああああああああああああああああ!」 シャミセンとハルヒは落ちていった。 森「……まあいいでしょう。次にあったときこそ、あなたの最後です」 谷口「なんだかアチコチでぶつかりあってるみたいだな」 国木田「そーだねー」 谷口「お。なんだこのキノコ。うまそうだな」 国木田「ちょっと、ダメだよ谷口。なんでもかんでも口に入れちゃ」 谷口「うめー。うめーよこれ。お前もくってみろって」 国木田「しょうがないなぁ……あ、うまい」 12 14 09 ジャングル それはまるで死神のように。 ジャングルを歩いていた古泉の後ろから、音も無く細い女の腕が伸び、 古泉「……!」 気がつけば首筋にナイフの刃が押し当てられていた。 朝倉「ふふ……ジ・エンドね古泉君」 妖艶に微笑む朝倉。 だが、古泉も不敵な笑みを崩さない。 ほんのちょっと朝倉が手に力を込めるだけでゲームオーバーだというのに、まだ何か策があるのだろうか? 古泉「朝倉さん……ちょっと僕の話を聞いてもらえませんか?」 朝倉「命乞い? 無駄だと思うけど」 古泉「機関が長門さんに注目していることはご存知で?」 朝倉「……まあ、知っているわ」 古泉「長門さんの私生活盗撮写真――」 朝倉「見せて」 朝倉はあっさりとナイフを収めた。 古泉「まずヌルいところから。寝姿」 朝倉「きゃー! 長門さんの寝顔っ!!! こ、これでヌルいのっ!?」 古泉「もちろん。入浴シーン、トイレシーン、そしてなんと……もあります」 朝倉「ぶばーーーーー(鼻血)! はやく、はやく!」 古泉「じゃあ後ろを向いてもらえますか?」 朝倉「こう?」 古泉「はい、ありがとうございました」 ぱん。 朝倉「……卑怯者ぉ」 長門「役立たず」 朝倉「なっ、長門さぁん! 違うの、これは……」 長門「古泉一樹。一騎打ちを申し込む」 古泉「いいでしょう。いずれはぶつかりあわねばならない相手ですし……不足はありませんよ」 朝倉「あ、あのね、わたし、あの……」 ぱんぱんぱん! 朝倉「ぎゃーーーー!」 長門「邪魔」 古泉「いきますよ――!」 長門「!」 古泉の姿が消えた。 古泉「これこそ機関が開発した光学迷彩! ふふふ、長門さんに僕の姿が見えますか?」 足音に向かって銃を撃つ長門。 古泉「あいてっ。や、やりますね」 長門「あたったら脱落」 古泉「脚ですから。まだ続行で」 長門「そんなルール聞いてない」 古泉「えー。あとでキョンタンのアナル写真あげますからー」 長門「……了解した」 朝倉「ちょっと! 卑怯よ!」 パンパンパン。 朝倉「ぎゃーーーーー!」 長門「邪魔。死んだら黙ってる」 朝倉「ふえーん」 古泉「それでは……ふふふ、見えない恐怖を味わってください長門さん」 長門「――」 今度は足音を立てないように動き始める古泉。 こうなっては、古泉が攻撃してきたときしか、位置を特定することは出来ない。 長門は大きな木を背にし、古泉の攻撃が正面から来るように誘導する。 古泉(やりますね長門さん。これではうかつに攻撃できない。狙うなら頭上からですが、 かといって僕の実力では、樹に登ろうとしたときに気づかれて撃たれてしまう。さて――) だが長門も、そして古泉も気づいていなかった。頭上に潜んだ伏兵の存在に。 ハルヒ「うひゃああああああああああああ!」 シャミセン「にゃああああああああああああああ!」 長門「!?」 古泉「!?」 ぐしゃ。 哀れ、長門はつり橋から落下してきたハルヒとシャミセンの下敷きになってしまった。 ハルヒ「あいててて……」 長門「きゅー」 ハルヒ「あ。有希みっけ」 パン。 長門「……無念」 朝倉「な、長門さぁーん!」 ハルヒ「あ。朝倉もみっけ」 パンパンパン。 朝倉「ぎゃーーー! あたしもう死んでるってばーーー!」 古泉(好機! いまなら涼宮さんは僕の存在自体に気づいてない! ふふふ……強敵を一度に始末できるなんて僕はついている! さあ、覚悟してください涼宮ハルヒ! そして僕のキョンタンから 永遠に忘れ去られるがいい!) シャミセン「にゃー(俺には匂いで分かるんだぜ、ボウヤ)。がぶ」 古泉「ぎゃあああああああああああああ!」 ハルヒ「あ。古泉君もみっけ」 ぱんぱんぱん。 古泉「あ、アナルむねーーーーーーん!」 ハルヒ「シャミセン、お手柄!」 シャミセン「にゃあ」 13時。新たに脱落したメンバーが発表される。 新川「古泉……ビッグアナルのアナルクローンであるお前が破れるとはな」 大佐「リキッドアナル古泉のことは忘れろ。ヤツのアナルは柔らかすぎた」 新川「ああ……」 キョン「おいおい、なんで妹が……何時の間に紛れ込んでたんだ?」 みくる「知らなかったんですか?」 キョン「まったく。怪我してなきゃいいけどな」 みくる「大丈夫ですよ」 誘拐少女「ケーキだそうですよ。妹さん、どうぞ」 妹「わーい」 喜緑「おいしい紅茶ですね」 多丸兄「脱落組みはすることないからねー。くつろいでてよ」 喜緑「そういえば会長の姿が見えませんが?」 多丸弟「あー……彼は、そう、ちょっとトレイじゃないかな? しかも大のほう! ははは」 多丸兄「はははは」 会長「やめろ! よせ! アナルだけは!! アナルだけは!!」 大佐「ふははははは!」 谷口「ヘビうめー。ワニもうめー」 国木田「なんだか僕たち、さっきから一回も戦ってないね」 谷口「漁夫の利を狙うのよ。知将だな、俺は」 国木田「池沼? 言いえて妙だね谷口」 谷口「わはははは。おまえも食え、ワニうめーぞ」 国木田「ほんとだ、これイケるね」 谷口「これでチャックはあと10年は全開のままだな!」 国木田「よかったね谷口」 陰謀未来人「半数近くが脱落か……ふん。そろそろ僕の出番のようだな。これも規定事項か」 キョン「あ、陰謀の未来人」 みくる「あんな目立つ崖の上で仁王立ちになってなにしてるんでしょうね」 キョン「だよなぁ。狙い撃ちだぜあれじゃあ」 みくる「あ、撃たれた」 キョン「あ、落ちた」 みくる「……」 キョン「……」 新川「大佐。陰謀の未来人をドラグノフで狙撃した」 大佐「よくやったぞスネーク。だが気をつけろ、森がそちらに向かっている」 新川「森か……ヤツには日ごろこき使われているからな」 大佐「くれぐれも……バレるなよ」 新川「ああ。まかせておいてくれ」 ハルヒ「よーし。これで残ってるのはあたしとシャミセン、キョンにみくるちゃん、 それに森さんと新川さんだけね」 古泉「残念です。もう少しでキョンタンのアナルが僕のものになったのに」 ハルヒ「あんたそんなこと考えてたの?」 古泉「ですが新川さんは強敵ですよ。彼のダンボールは見抜けません」 ハルヒ「なにそれ」 古泉「ふふふ。いずれ貴方も新川さんの恐怖を知ることになるでしょう」 ハルヒ「いいわ。どんなヤツが相手でも、あたしは負けない! ううん、SOS団は負けないんだから!」 長門「……」 古泉「まっさきに分散して、自分で団員を各個撃破してる気がしますが、まあいいでしょう」 朝倉「長門さーん、喜緑さんがお茶にしませんかって」 長門「行く」 ハルヒ「ま、ゆっくり観戦してなさい。あたしが勝つから!」 長門「……頑張って」 森「……出てきなさい新川。ダンボールの中に隠れているのは分かっています」 新川「ちっ……」 森「相変わらずネイキッド(全裸)のようですね」 新川「女のアナルに興味は無い。失せろ」 森「不思議なことがあります」 新川「なんだ?」 森「あなたはまるで、この戦場のどこに誰がいて、どこにどんな武器や道具が隠されているか 知っているような動きをとっている」 新川「……兵士の感だ。長年戦場で暮らしていると、そういうものが身に付く」 森「ではその裸体にベルトで括り付けている小型通信機は?」 新川「――バレたからには死んでもらう」 森「新川ァ!」 新川「もりいいいいいいいいいいいい!」 新川の構えたマシンガンが火を噴く。 だが森はその銃弾全てを刀ではじきながら、距離を詰めた。 森「銃などに頼っているうちはわたしには勝てません!」 新川「ぬぅ!」 森「覚悟――!」 ばしぃん! 振り下ろした森の刀を、眼前、新川は両の手で挟み止めていた。 森「真剣白羽取り! 実践でこれを使いこなすとは――新川、腕をあげましたね!」 新川「ふんっ!」 ぱきぃん! 森「刀を――!」 折られた刀をすばやく放棄し、森はメイド服の裾から細長い剣を数本、指に挟んで抜き出した。 新川「黒鍵か!」 森「とあっ!」 森の投げた黒鍵が新川を貫いた――ように見えた。が。 森「これは金ケシ!? 身代わりの術!」 新川「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!!」 横合いから放たれた新川のペガサス流星拳が森を打つ。 吹っ飛ばされる森。ダメージは深刻、勝ち目は薄い―― 森「……く」 新川「あきらめろ。俺には勝てん」 森「ふふふ……なるほど。この装備では殺しきれませんね」 新川「!」 森「また会いましょう新川」 脱兎のごとく逃げ出す森。 逃がすわけには行かない、冷静になられたら負ける、この熱が引かないうちに勝負を決しなくては――! 新川は慌ててドラグノフを構えたが、森の姿はジャングルの闇に隠れ、すぐに見えなくなってしまった。 一方その頃、キョンとみくるは物陰から二人の戦いを眺めていた。 キョン「……あいつら人間じゃねえ」 みくる「どどどど、どうしましょうキョンくんっ」 キョン「どうするもこうするも……スナイパーライフルでもあれば、狙撃のひとつもするんですけどね」 みくる「どどどど、どうしましょう、ドラグノフ拾っちゃいました、あたし!」 キョン「なんで早くそのことを言わないんですか」 みくる「だ、だって、やっぱり人を撃ったらいけませんよ!」 キョン「いまはそんなことを言ってる場合じゃないでしょ! 早くドラグノフをかしてください!」 みくる「は、はいっ!」 キョン「よし、照準を――あれ?」 こつん、とキョンの頭に銃口があたる。 みくる「ひっ……き、キョンくん、よ、横に……」 新川「戦場で大声を立てるとはな。とんだ素人だ」 キョン「ははは……じょ、冗談だろう新川さん」 新川「ここは戦場だ。油断した兵士に与えられるものは、死しかない」 みくる「ひいいいっ!」 ??「まつっさ!」 みくる「!?」 新川「……現れたな」 キョン「そ、その声はまさか……!」 みくる「つ……」 ちゅるや「ちゅるや参上!」 「「「エーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」 ちゅるや「スモークチーズはどこだいキョンくん?」 キョン「さっき食べたでしょ」 ちゅるや「にょろーん」 パン! キョン「ちゅるやさぁーーーーん!」 ちゅるや「にょろろーーーん!」 新川「邪魔が入ったが、次は小僧、貴様の番だ……む?」 みくる「う、動かないでください!」 震える手で銃を構えるみくる。 上下にゆれる銃口は、キョンの頭に銃を押し付けている新川を狙っている。 新川「やめておけ。そんな細腕では銃の反動は抑えられん。どこに飛ぶかわからんぞ。 自分の手でこの小僧の頭を吹き飛ばしたくなければ、銃を捨てろ」 みくる「あああ、あたしだって、こんなときのために銃器の練習はしてきてるんです! が、ガン=カタの餌食になりたくなかったら、キョンくんを離してっ!」 ガン=カタは拳銃を総合的に 使用する格闘技である (゚д゚ ) (| y |) この格闘技を極めることにより… ( ゚д゚) ;y=‐ ;y=‐ (\/\/ 攻撃効果は120%上昇 ( ゚д゚) ;y=‐ (\/\ \ ;y=‐ 防御面では63%上昇 ー=y;― | (゚д゚ ) ー=y;_/| y | ガン=カタを極めたものは無敵になる! ー=y; ( ゚д゚) ;y=‐ \/| y |\/ うそだった。はったりだ。 未来からのエージェントとはいえ、みくるはそんな戦闘訓練など積んでいない。 それでも、少しでもキョンが逃げられる隙を作れれば―― 新川「嘘だな。ならなぜセーフティを外さない? それでは弾は出ない」 みくる「え?」 みくるが自分の銃に目をおろす。 セーフティは――外れている! それこそブラフだ! 新川「ふっ――!」 みくる「ひぇ――」 ハルヒ「うらああああああああああああ!」 ハルヒのドロップキックが新川の側頭部を打ち抜いた。 スローモーションで倒れる新川。 ハルヒ「全裸でなにやってんのよあんた! うちのみくるちゃんにセクハラするつもり!?」 みくる「はっ」 そういえば新川は全裸だった! いまさら思い出したようにみくるが両手で顔を隠す。 だが手遅れだ。みくるの脳裏には、すっかり新川のスーパーサイズドライが焼きついてしまっている。 キョン「ハルヒ……来てくれたのか」 ハルヒ「あ、あたりまえでしょ! あたしは団員がピンチだったらいつでもどこでも、すぐに駆けつけるわよ!」 新川「……ふ。やってくれる」 ハルヒ「まだ生きてたのアンタ。とっとと死になさい!」 ぱんぱんぱん! ハルヒ「あたった――って、ウソ……」 キョン「あ、アナルで全ての銃弾を受け止めやがった……」 みくる「いやーーーーー!」 新川「俺のアナルは大佐によって鍛えられ、あらゆる弾丸を止めることが出来る。BB弾ごときでは貫通せん」 ハルヒ「そんな……! キョン、あんたもアナルで対抗するのよ!」 キョン「アナルだけは! アナルだけは!!」 みくる「お、落ち着いてください二人とも!」 新川「ふふふ、やはりお前たち相手にエアガン一丁だけでは分が悪いな。アレを使わせてもらう」 キョン「あれ?」 新川「カモン! ダンボール!」 ゴゴゴゴゴ。 ハルヒ「なっ! 全長10メートルはある巨大ダンボール!?」 新川「合体!」 みくる「新川さんがダンボールの中に収納されましたっ!?」 新川「これこそ! わが機関が開発した究極の兵器・メタルギアだ!」 ハルヒ「……ダンボールが?」 新川「ふはははは! 強化ダンボール製の装甲はBB弾ごときでは貫通せん!」 キョン「なんだと!」 パンパンパン! カンカンカン! はじかれる銃弾! ハルヒ「ちょ、ちょっと! 卑怯よ!」 新川「さあSOS団よ! 怯えろ! 竦め! 何も出来ぬまま死んで行けぇ!」 きゅらきゅらきゅら…… ダンボールの中にキャタピラがついているのだろう、不気味な音を立てて迫る巨大ダンボール。 ハルヒ「こいつはピンチね……」 キョン「くそっ!」 キョンがドラグノフを構えるが、やはり弾丸は厚い装甲に阻まれてしまう。 ハルヒ「あーもう、ランチャーとかミサイルとか無いわけ?」 キョン「そんなもんあるかっ! これはゲームだぞ!」 ハルヒ「そんなこといったら、あっちだってゲームにこんなバカ兵器持ち込んでるのよ!」 みくる「け、けんかはダメですー!」 新川「ふはははは! アナルキャノン発射!」 ちゅどーん。 みくる「きゃーーーーー!」 キョン「朝比奈さん!」 ハルヒ「みくるちゃん!」 みくる「あはは……や、やられちゃいました……涼宮さん、キョンくん、この時代でお二人にあえて、あたしは……」 ハルヒ「喋っちゃダメ! 安静に……」 みくる「あ、あたしはもうダメです……それよりこれを……」 キョン「これは……水鉄砲?」 みくる「さっきドラグノフと一緒に拾ったんです……それを使って……がく」 キョン「あ、朝比奈さぁーーーーん!」 ハルヒ「くっ……キョン、みくるちゃんのカタキを討つのよ!」 キョン「しかしどうやって……」 ハルヒ「それよ! その水鉄砲! いくら強化されてるからって、ダンボールなんだったら水でふにゃふにゃになるでしょ!」 キョン「そうか、よし!」 ぴゅー。 新川「ぐわあああ! 装甲が溶ける!」 ハルヒ「いけるわ!」 新川「く……こうなったら!」 ハルヒ「えっ?」 ばんっ! がしっ! 突如ダンボールからマジックハンドが伸び、ハルヒの身体を掴み上げた! ハルヒ「あうっ!」 新川「くくく……このお嬢さんを真っ二つにされたくなかったら、銃を捨てろ小僧」 キョン「なっ!」 ハルヒ「キョン! 言うこと聞くことないわよ!」 キョン「く……ハルヒ……」 新川「バカめ。いくら装甲を溶かしたところで、俺に直撃を当てなければ勝ちにはならん。 水鉄砲ごときでどうにかなるとでも思っているのか?」 新川の言うとおりだ。 あの森園生をも退けた男に、キョンが水鉄砲で勝てるわけがない。 ハルヒ「だったら今は逃げて、武器を探すのよ! こいつを倒せる強力な武器がきっとどこかに落ちてるわ!」 新川「ふははは。健気なことだな。どうする小僧、このお嬢さんを見捨てて逃げるかね?」 マジックハンドがぎりぎりとハルヒの細い身体を締め上げる。 ハルヒ「きゃああああああ!」 キョン「やめろっ! ……わかった、銃は捨てる。だからハルヒを離せ」 ハルヒ「あ、こら、バカキョン! なにやってんのよアホーーー!」 キョン「アホでも構わん。勘違いするなよ。俺の知ってるハルヒは、どんな状況でも逃げろなんて命令は出さないはずだからな」 ハルヒ「えっ……」 キョン「涼宮ハルヒはいつだって前進征圧のバカ女だ。自分は帝王の星の元に生まれてきたと勘違いしてる大バカ野郎だ」 ハルヒ「キョン、ちょっとあんた、何言って……」 キョン「引かぬ、媚びぬ、省みぬ! それが涼宮ハルヒだ! 俺が死んでも、ハルヒが生き延びればSOS団は勝つ! だから――」 ガガガガガガ! ハルヒ「あ……」 アナルマシンガンに蜂の巣にされ、キョンがゆっくりと倒れる。 ハルヒ「うそ……いや、いやぁ! キョン、バカキョン! なにやってんのよぉ! あんたが死んだら、SOS団なんてっ……!」 新川「ふっはははは。愚かなりキョン。お前のアナルは後でゆっくりといただこう……だが、まずは涼宮ハルヒ。貴様もそろそろ脱落だ!」 ハルヒ「くっ……どのみちあたしもこれまでなの……? いいえ、違うわ。キョンが命をかけてまで時間を稼いでくれたんだもの、 こんなんで負けられない!」 新川「無駄な足掻きを――」 ハルヒ「しゃみせーーーーーん!」 シャミセン「にゃあ(まかせろ)」 シャミセンがマジックハンドにかじりつく。 新川「ぬっ! 猫ごときが、アナルアームを破壊できると……」 シャミセン「にゃあ(勘違いするなよオッサン。こいつを見な)」 新川「それはプラスチック爆弾!」 ハルヒ「シャミセン!」 シャミセン「にゃあ~(あばよハルヒ)」 カッ―― 閃光と爆音、強烈な振動と共にハルヒの身体が宙に放り投げられる。 ハルヒ「――っ!」 地面を転がり、身体にまとわりついたアームの残骸を振りほどいて、ハルヒはきつくメタルギアを睨み上げた。 ハルヒ「みくるちゃん、キョン、シャミセン……あたしは……勝つわ!」 新川「くっ……アームは破壊されたがな、どのみち貴様に勝ち目は無い!」 森「それはどうでしょう」 新川「なに!」 ハルヒ「森さん!?」 森「あなたの粘りがちです涼宮さん。これをお使いなさい」 ハルヒ「これは……この剣は、まさかエクスカリバー!」 森「ええ。これならメタルギアの装甲も貫通できます」 ハルヒ「で、でも……森さんはいいの? これがあれば、森さんが優勝できるのに」 森「わたしは自主的に脱落しました。新川はこの大会で不正を働いていたのです」 ハルヒ「え?」 森「新川は大会の主催者の一人である大佐と組み、戦場の情報を逐一通信機で受け取っていたのです。 彼らはそうやって優勝賞金を稼ぎ、アナルグッズにつぎ込んでいたんですよ」 ハルヒ「そんな! 卑怯だわ!」 森「ええ。ですがそのことに気づかなかったわたしにも責任はあります。ですから、今回はわたしも自主敗退ということで」 ハルヒ「そうなの……じゃあ、遠慮はいらないわ。使わせてもらうわね、この武器を!」 森「やってしまいなさい、涼宮さん。あなたは一人じゃない――」 ハルヒ「そうよ。あたしは一人じゃない。みくるちゃんが、キョンが、シャミセンがいてくれたからここまでこれた」 新川「おのれえええええええ! エクスカリバーごときに負けるメタルギアではないわ! 踏み潰してくれる!」 ごごごごご……大地を揺らし、メタルギアがハルヒに迫る……! 新川「ふははははははは! 怖かろう!」 ハルヒ「戦場で散った人たち! あたしの身体を貸してあげるわ!」 新川「な、なにぃ! ヤツの身体に光が集まっていく……な、なんなのだこれは!?」 ハルヒ「戦争をアナルとしか思えないあんたには分からないでしょうね! あたしの身体を通して出る力が! 人の心の光が!」 新川「人の心の光だと!? それが愚民どもにその才能を利用されているものの言葉かっ! 恥丘がもたん時が来ているのだ! それを分かるんだよアナルっ!」 ハルヒ「知るかヴォケ!」 新川「ええい、アナルのすばらしさを理解できんものと話す舌などもたん! 死ね――な、なんだ? 動かん!? どうしたのだメタルギア、動け、なぜ動かん!」 ハルヒ「エクス――――――」 新川「ハルヒィィィィィィィィィィィィ!」 ハルヒ「――カリバァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーー!」 ―― 轟音と共に白く染まる戦場。 閃光が収まった後には、真っ二つになったメタルギアと、 orzのポーズでうずくまっている新川の、真っ二つになった尻があった。 ハルヒ「……最初から尻は割れてるでしょ。あたしの勝ち、ね?」 新川「ああ――そして、私の敗北だ」 エピローグ みくる「涼宮さぁーん!」 ハルヒ「みくるちゃん! あーもう、泣かないの! あたしが勝つって言ったでしょ」 みくる「うええええん!」 キョン「まったく、ひやひやしたぜ」 ハルヒ「ふん。なによバカキョン。勝手にカッコつけて脱落しちゃってさ」 キョン「うるせーな。どうしようもないだろ、あれじゃ」 みくる「わわわ、けんかはダメですよっ! せっかく優勝したんですから!」 キョン「まあな。よくやったぜ、ハルヒ」 ハルヒ「……ふん。……あんたもね、ほんとはちょーっとかっこよかったかもね」 キョン「朝比奈さんが庇ってくれなかったら危なかったけどな」 みくる「そ、そんなぁー。あたしは別に……」 ハルヒ「……む」 キョン「ん? なんか言ったか?」 ハルヒ「ふんっ、バカキョンは罰ゲーム決定!」 キョン「んなぁっ!? なんだそりゃ、おい――」 ハルヒ「ふーんだ。今度のSOS団ミーティングまでたっぷり考えておくからね、覚悟してるがいいわっ」 長門「約束のものを」 古泉「はいはい。キョンタンのアナルですね……」 長門「満足」 朝倉「あ、あの、あたしの長門さんは?」 古泉「ああ、すみません。長門さんはガードが固くて、実はあの寝顔も偽造です」 朝倉「じゃあ、死んで」 古泉「アナルだけは!! アナルだけは!!」 シャミセン「にゃー」 妹「あ、シャミー帰ってきた。おつかれー」 ちゅるや「やぁ、シャミーくん、スモークチーズはどこだい?」 シャミセン「にゃあ(さっき食べたでしょ)」 ちゅるや「にょろーん」 多丸兄「おめでとう涼宮さん。これが賞金の300万だよ」 ハルヒ「ありがとうございます、多丸さん。今度また面白いイベントがあったら呼んでくださいね」 多丸弟「ははは、もちろんだよ」 キョン「あれ? 森さんや新川さんは?」 多丸兄弟「ははははは……」 森「はい、二人とも覚悟はできてますね?」 新川「アナルだけは!! アナルだけは!!」 大佐「アナルだけは!! アナルだけは!!」 森「懲罰!!!!!」 喜緑「大丈夫ですか会長」 会長「うう……俺はいったい何のために……」 誘拐少女「はぁ……」 陰謀未来人「つまらないな。こうもあっさり負けるとは。ふん。だがこれも規定事項だ」 誘拐少女「……アホですよね、あなた」 陰謀未来人「褒めるな」 ハルヒ「凱旋!」 キョン「おーう」 長門「……」 みくる「うーん」 古泉「どうかしましたか?」 みくる「なにか忘れてるような気がするんですけど……」 ハルヒ「なにいってんの! 優勝したし、賞金ももらったし、何も忘れ物なんてないわよ!」 みくる「うーん……それもそうですね。心配しすぎでした」 ハルヒ「さー、帰ったらぱーっと騒ぐわよ! なにしろ300万だからね! あーもう、使い切れない! ともかく! SOS団! 勝利っ、おめでとーーー!」 「「「「おおおおおおーー!」」」」 …… ………… ……………… 谷口「おーい国木田、カエルうまいぞー」 国木田「ねえ谷口。僕たちなんか忘れてない?」 谷口「ああん? チャックはちゃんと全開だし……あ!」 国木田「なんか思い出した?」 谷口「WAWAWAわすれもの~これ!」 国木田「あ、それってRPG-7だよね。どこで拾ったの?」 谷口「ついさっきそこで。こいつがあれば優勝はいただきだよな」 国木田「そうだね。ところでさっきの白い閃光ってなんだったのかなぁ」 谷口「さぁな。どっかで爆弾でも爆発したんだろ。なぁに、俺のチャックが開いてればヘでもないぜ」 国木田「さすが頼りになるなぁ。谷口についてきてほんとによかったよ」 谷口「さぁーて、もう少し潜伏して、ころあいを見て漁夫の利だぜ。まずはSOS団だな。 あいつらには積年の恨みがあるし、徹底的に叩いてやるぜ」 国木田「うーん、そういえば、さっきから脱落者の放送がないような気がするけど……」 谷口「おら行くぞ国木田!」 国木田「気のせいだよね。待ってよ谷口ー」 <エンディングテーマ 谷口グッマイラブ> チャック全開? WAO! ワスレモノ! チャック満開? HUU! ワスレモノ! マイラバー谷口 アナルミステリー グッドラブ谷口 アナルヒストリー フォーエバー ザッツライク 涙を拭いてあげる 想いは風に乗って グッマイラブ……
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5029.html
俺が朝目覚めると、目の前にハルヒの寝顔があった。 一瞬戸惑ったが、昨日のことを思い出す。 ちなみに俺達は付き合っていたのだが、こういうことをしたのは今回が初めてだ。 俺もまぁしたくないわけではなかったのだが、ハルヒに拒否されるかと思うと怖くて出来なかったんだ。しかし、昨日ハルヒが俺のことを挑発してきて、ついに俺の理性がぶちぎれてしまったわけだ。 そう、俺とハルヒはその何と言うかまぁそういうことをしてしまったわけだ。 ハルヒは中学時代に付き合いまくってたにも関わらず初めてだった様だ。まぁ、俺もそうだったがな。 そんなことを思いながらハルヒの寝顔を見る。 やっぱりきれいだ。俺の自慢の彼女だもんな。 時計を確認すると、そろそろおきたほうが良い時間のようだ。今日は学校もあるしな。さぼろうかと思ったが、ハルヒと二人でさぼったら古泉たちに何を言われるか分からん。 さて、ハルヒを起こすか。 俺が起こすと、ハルヒは比較的寝起きが良いようで、スッと起きた。 「おはよう」 あぁ、おはよう。体、大丈夫か? 「あ、うん///大丈夫そう。ちょっとスースーするけど…」 学校行けそうか? 「大丈夫」 そうか、じゃ早く準備して行くぞ。 「キョン、おはようのキスして。」 あぁあぁ、わかりましたよ。 チュッと軽いキスを落とす。 「ねぇ、もっとやってよぉ」 仕方ねぇな・・・学校前だぞ? 俺たちはさっきより濃厚なキスをした。 「ぷはぁ・・・キョン、朝から激しすぎよ。」 すまん、お前が可愛すぎだからだ。 「もう///」 すると、俺はあるいたずらを思いついた。 おいハルヒ、お前今日俺のいう事聞いてくれるか? ちなみにこういうとき、ハルヒは大抵俺のいう事を聞いてくれる。付き合う以前はともかく、こいつから告白してきたし、ハルヒは俺と二人っきりの時は比較的素直だ。 「何?キョン」 これ挿れて学校行ってくれないか? 「え、これって…」 俺達は昨日、初夜だとは思えないほど激しいプレイをし、道具なども使ったわけだ。 俺の手に握られていたのは、昨日ハルヒの前戯に使ったバイブだった。 「でも…」 いいだろ? 「ばれちゃわないかな?」 大丈夫だよ、お前もスリルは大好きだろ? ほら入れるぞ。 「あ・・・ん」 ハルヒの中にバイブを入れる。 「ん・・・あぁん・・・」 おいハルヒ、もう感じてるのか?一日持たないぞ? 俺の中で何かのサディズムが目覚めてしまったようだ。 まぁ、付き合う以前は散々尻に敷かれていたし大丈夫だろう。 何やかんやあったが、俺達は無事に学校に時間通りについた。何とか一緒に来たこともばれなかったようだ。 そして ハルヒの膣には今バイブが挿入されている。 授業は始まったが、ハルヒは真っ赤な顔をしたままずっと下を向いたままだ。 かくいう俺はチラチラと後ろを確認している。 すると、ハルヒが俺をつついて小さな声で言ってきた。 「キ、キョンー…あ・・・はぁ・・・もう無理っぽいよぉ・・・」 確かに、もうハルヒの秘部から出たと思わしき匂いが充満し始めている。このままじゃばれてしまうかもしれない。 じゃぁ、この授業が終わるまで我慢できるか? 「が、頑張ってみるわ・・・」 休み時間になった瞬間、ハルヒが話しかけてきた。 「キョンー・・・早く抜いてぇ・・・もう無理だよぉ」 そうかそうか、よく我慢したな。 ほら、立て。保健室行くぞ。 ハルヒは立とうとしたが、その瞬間にしゃがみこんでしまった。 「キョン、立てないよぉ、足に力が入らない・・・」 仕方がない、俺はハルヒをお姫様抱っこして保健室に行った。 すると、ちょうど良いことに保健の先生は居なかった。 ほら、ハルヒ、寝転がれ。抜いてやるから。 「ありがと・・・キョン。」 ハルヒは顔を真っ赤にしていて、相当感じているようだ。 俺はハルヒをベッドに寝かせ、先生が来てもばれないようにベッドの周りのカーテンを閉める。 ハルヒ、足を開けろ。 グチョ、ヌチャ いやらしい音を立てながら、ハルヒが股を開く。 俺はパンツの上から、軽くハルヒの秘部を撫でる。 「あ・・・」 ビチョビチョじゃないか、むしろ洪水だ。感じてるのか?ハルヒ。 「ん・・・もう、キョンのせいなんだから。」 俺はハルヒのパンツをずらし、バイブを抜いた。 抜いたあとにハルヒのハルヒの穴を見ていると、何かを求めているようにヒクヒクしている。 「キョン、そんな見ないで・・・」 そうか。 俺はそういうとハルヒのパンツを元に戻した。 正直俺も今すぐにでも押し倒したかったし、俺の息子もかなり大きくなって居た。それにハルヒも感じていて、もっとして欲しいようだ。だが、あえて裏切ってみる。 「え・・・?キョン、もっとしてくれないの?」 何言ってるんだ、ここは学校だぞ?家まで我慢できたらやってやるよ。 「えー・・・」 やれやれ、これからあと学校が終わるまで、俺もハルヒも耐えられるかな・・・ っていうか初めてなのに二人ともやりすぎだろw
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/811.html
それは二年の進級を一ヵ月後に控えたまだ少しばかり肌寒い日のこと いったい何日間この状態が続いたのだろうか 散らかった部屋、割れた窓ガラス 手首のリストカットの後 だが俺は死ななかった いや、死ぬのが恐いだけなのだ 学校にはかれこれ一週間行ってない なぜかって? 行く必要がなくなったからだ あいつがいない学校なんて俺には意味のないものだ そう、涼宮ハルヒはもうこの世にはいないのだ あいつを殺した犯人はハルヒと中学生のころ付き合っていた男らしい 度々ハルヒに連絡していたらしいが、相手にされずにいた それに腹を立てたのか、そいつはハルヒの家の周辺に身を潜め、待ち伏せし、持っていたナイフでハルヒを突き刺した その切っ先は心臓まで届いていたらしく、刺されて数分後、その場でハルヒは息をひきとった 皮肉にもハルヒの死体を発見したのはハルヒの母親だった 後に犯人の身元が警察の手によって判明し、数日後にそいつは逮捕された 俺がハルヒが殺されたことを知ったのは殺害があった次の日、学校で知らされた 岡部が泣きながら喋っていたのを覚えてる 谷口や国木田も愕然といった様子だった 俺の席の後ろにはもちろん誰もいない 信じられなかった あいつが死ぬなんてことは この現実を受けとめたとき、俺は精神的に大ダメージを受けていた リストカットや部屋で暴れることだけが俺が俺自身を保つ術だった そして、俺は自ら外部との連絡を断ち切った 「くそ・・!なんで・・・!」 その言葉がスイッチになったように俺は突然暴れだす そこら辺に転がってるものを手当たりしだいに投げ、窓ガラスを割る 扉越しに「何してるの!?」と親の声が聞こえるが俺は構わず、怪獣の如く暴れ続ける お袋、これをやめたら俺は壊れてしまうんだよ いや、もう俺は壊れていたのだ 俺がこの状態になってから妹は俺に近づかなくなった 一通り暴れた後、俺はまるで電池が切れたかのようにその場に座り込んだ そこからはまた放心状態が続く 「もう・・やめて・・・う・・・」 母の泣きながら喋る声がドア越しに俺の耳の中に入ってくる 俺は返事をせず、ひたすら放心状態を続ける しばらくすると母は泣きやみ、母の歩く足音が俺の部屋のドアから遠ざかっていった その重い足取りは部屋の扉を越えて俺まで伝ってくる 母が去った後も俺の放心状態は続く そういえばSOS団のみんなは今頃何をやっているのだろう 観察対象がいなくなった今、あいつらがここにいる意味はあるのか 携帯もどっかに投げちまったからな 俺から連絡する手段がない するつもりもないがな 自宅の電話に俺宛ての電話がきても俺は受話器に耳をあてることはなかった やがて何もしない時間が続き、夜がやってきた 眠気はまだない 生きてる実感もない そう思い、俺は机の上の剃刀に手を伸ばした これでまた生きてることを実感できる そして、俺は剃刀を腕に当てようとしたとき、剃刀を持つ右手が不意に止まった 誰かに捕まれたようだった 「バカなことやってんじゃないわよ。あんた」 俺の右手を握っていたのは一週間前に死んだはずのハルヒだった いつも学校で見ていた制服姿で、口をへの字にして、俺の右手首を掴んでいた 俺は呆然とした 幻を見ているのだろうか しかし俺の手首を握っているこの感触は確かにはっきりとしている 間違いなくハルヒがそこにいた 「ハルヒ・・・!」 リストカットのことを当たり前のように忘れ、俺は涙を目に浮かべながらハルヒを思いっきり抱きしめた 「バカねぇあんた。あたしが死んだくらいで泣くんじゃないわよ」 ハルヒは笑っていた 「あたし、死んでから学校に行ってみたの。SOS団の部室に。そしたら、有希がいて私に気付いてくれたのよ。みんなには見えないのに」 俺は抱きしめながらハルヒの話しを聞いていた 「それでね、有希の家に行って、あの子の力であたしを実体化させてもらったの。そこで聞いたわ。有希とみくるちゃんと古泉君のこと」 ハルヒの感触を確かに感じながら俺は問い掛けた 「どういうことだ?」 「有希が宇宙人、みくるちゃんが未来人、古泉君が超能力者って話し。なんかバカみたい。あたしだけが知らなかったなんて。あんたの言った通りだったわ」 ハルヒは少し怒っているような口調だった とても死人には見えない、感情豊かなハルヒだ 俺はハルヒを離し、肩を掴みながらこう問い掛けた 「俺はどうすればいい?お前がいない学校なんて俺にはなんの意味も持たないんだ」 俺は俯いていた するとハルヒが俺の顔を覗き込み真剣な眼差しで俺を見据えながら言った 「あたしがいなくても、あんたにはSOS団のみんながいるでしょ?」 でも俺は――― と言い掛けたところで、俺の唇に柔らかい感触がはしった 俺の唇がハルヒの唇によってふさがれていた 俺は驚いて目を見開いたが、ハルヒは目を閉じていた 数秒経過したのち、ハルヒは唇を離した ハルヒは頬に朱の色を差しながら腕に付けている腕章を外し、それを俺に手渡した 「今日からあんたが団長よ。これからはあんたがみんなを引っ張っていくの」 まるで当然のことをするような態度でハルヒは喋った 俺が・・・団長 「もうすぐ二年なんだからしっかりしないさいよ?団長としての自覚を持ちなさい」 ハルヒは俺に人差し指を突き付けた その様はいつもSOS団の部室で俺に見せてきたハルヒの姿そのものだった 死人でさえこんな元気ハツラツとしているのに、俺は一人で勝手に落ち込んでいったい何をやっているのだろう しばらく俯いたのち、俺はこう言う 「分かった。SOS団は俺に任せろ。それどころかお前がいたとき以上にでかい組織にしてやる。 ハルヒ、今まで団長の勤め、ご苦労だった。後のことは俺に任せてお前はもう休んどけ」 そして俺は剃刀を窓からとおくへ投げ捨てた 部屋も片付けなきゃならないな するとハルヒは今まで俺に見せたことのない、優しい微笑みを顔に浮かべた 朝比奈さんでさえ遠く及ばない、まるで生まれたての子供を母親が笑いながらあやしてるような そんな笑顔だった 「うん・・ありがと・・・キョン・・」 この瞬間ハルヒの体から眩しい光が放たれた たまらず俺は目を閉じる 次に目をあけたとき、部屋には誰もいなかった だが、俺の手の中にある腕章だけが涼宮ハルヒが確かにここに居たことを物語っていた あれから一ヵ月がたち、俺は無事に二年に進級できた 朝比奈さんは卒業まで学校に残るらしい 「涼宮さんがいなくなっても、私はまだみんなといたいから・・・上の人に申請書を出してなんとかOKをもらいました。長門さんと古泉君が残る理由も気になるし・・」 と、少しばかり悲しそうな表情で言っていた 「わたしのすべきことはまだ残っている」 長門はそれだけ言って、いつものように読書にいそしんでいた 「次は長門さんと協力をしあって、朝比奈さんをサポートしなければなりません。前に彼女を拉致した輩がまた襲ってこないとも限りませんから。 僕達は彼女のボディガードといったところでしょう」 と、これが古泉の理由だ なるほどね 二年の新クラスには、谷口と国木田も一緒になった また三人でつるむ事にできるな 正直かなり嬉しかった いいのか、悪いのか、古泉とはまた別クラスだ まぁあの爽やかな超能力者のことなどは置いといて、今は新クラス恒例の自己紹介の時間である 谷口が調子よく、いつもの間抜け面で挨拶をし 国木田はいたってナチュラルに事を終えた 初めましての奴らが多い中、やがて俺の番が回ってきた 「SOS団団長、あだ名はキョン」 俺は両手を腰に当てて胸を張り、いつしかあいつが言ったように、真っすぐ前を見据え、こう発言した 「ただの人間に興味はない。この中で宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら俺のところにきてほしい。以上」 クラス中の痛々しい視線が俺を襲ったが、俺は何とも思わなかった このとき、俺の左腕には団長という文字が記された腕章が着けてあった ~ハルヒが残した希望~ FIN
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3780.html
『涼宮ハルヒの進路』 3月。鶴屋さんと朝比奈さんはそろって卒業し、鶴屋さんは地元の大学へ合格した。 朝比奈さんは・・・試験当日、高熱を出して文字通り昏倒し、結果、一年を棒にふった。 おかげでというか、卒業後も文芸部室のマスコットを継続していただけることになった。 予備校とか、いいんですか?と控えめに聞いた俺に対し朝比奈さんは泣きそうな声で 「私は! 試験に落ちたんじゃないですから!」 と叫んだ後なにやら呪うようにつぶやいていた ウケテサエイレバ ウケテサエイレバ ウケテサエイレバ 聞かなかったことにしよう 4月がきて、俺たちは最上級生へと進級した。このままいけば来年で卒業であり 本格的に進路を考えざるを得ない状況に追い込まれたわけだ。 職員室の岡部のところまで日誌を届けに行くと、先客がいた。ハルヒだ。 聞くともなく聞いた内容によると、ハルヒは進路調査を白紙で出したらしい。 「どうしたんだハルヒ。お前の成績ならどこでもすきなとこ選べるだろ」 「うっさい、余計なお世話よ。だいたいアンタ、他人の心配してる余裕あんの?」 とりつくシマもない 受験生となっても団活に休みはない。 新年度最初の不思議探索。くじ引きは古泉と二人組みになり、このところ閉鎖空間が頻発していると聞かされる。 なぜだ?進路希望を白紙で出したりするからには悩んではいるのだろうが、閉鎖空間を創るほどのことだろうか? それとも、進路とは関係ないのか?理由がわからない。 掃除当番を終え、いつもの文芸部室にやったきた俺を迎えたのは卒業後も律儀にメイド服に着替えている朝比奈さんと、 いつものように本を開いている長門、そしてマウスをぐりぐり動かしているハルヒだった。 てっきり俺が最後だとおもったが 「9組はホームルームが長引いてるみたい。どうせ進路がらみでしょ。アンタ…進路は考えてるの?」 「んー・・・そうだな。私立に行く金も県外に出る金もないし、地元の国立がベストだな」 「そんなの奨学金とればいいだけじゃない。ちゃんとやりたいことのできるとこ選ばないとダメよ!」 珍しいこともあるもんだ。ハルヒがまともなことを言っている。 じゃぁベストは模索中ってことで、いまんとこ地元国立だ。 「へぇ…偶然ね」 ハルヒがつぶやいた。パソコンのモニターで顔は見えない。 なんと、ハルヒも同じ進路らしい。偶然だと信じたい。 それにしてもアンタ、国立志望できるほど成績よかったっけ? 安全圏には程遠いな。家庭教師をしてくれるって、前に言ってたよな? あったり前よ!SOS団団員が浪人したなんていったら団長の恥よっ! 東大でもケンブリッジでもオックスフォードでもMITでも、トップ合格できるくらい叩き込んであげるわ! 頼りにしてるぞ。 久しぶりな気がする、100Wのハルヒの笑顔だった。 ふふん。覚悟しなさい? ところで、朝比奈さんがうつろな目をして何かつぶやいてるぞ。 ワタシハローニンジャナイ ローニンジャナイ ローニンジャナイ 聞かなかったことにしよう それから毎日、団活後はハルヒが家まで押しかけてきて家庭教師をしてくれるようになった。 数日後、古泉から閉鎖空間の発生が嘘のように落ち着いたと聞かされる。 はて、俺は何もしていないぞ。 礼を言うな。気持ち悪い。 土曜はもちろん不思議探索があった。 探索後、ハルヒは我が家で家庭教師をしてくれている。 明日の日曜は丸々朝から家庭教師をしてくれることになった。 自分の勉強は大丈夫なのか あたしの頭脳をもってすればNASAだって余裕よ! NASAは大学じゃないような気がするが 飲み干したコップやらを台所に返しにきたら ハルヒさんに夕飯食べていってくださいって伝えてね 現物支給か? と俺を頭のてっぺんから足元までしげしげと眺めた後、 現物支給で受け取ってもらえるくらい高い子だったら、母さん苦労しないわよ ため息交じりでのたまった。どういう意味ですかお母様。 日曜日、妹 ハルヒタッグの襲撃により起床を余儀なくされ 文字通り あさめし前 の課題を消化していると玄関のチャイムが鳴った 今日は朝から客の多い日だと思いつつ、出された問題と格闘していると パタパタとスリッパの音が近づいてきて、ノックが響いた。 どうぞー 誰の部屋だ うっさい。問題に集中しなさい。それ終わるまで朝ごはんはおあずけよ! おじゃまします 入ってきた人物を見て、ハルヒがぽかんとしている。 俺も驚いた。なぜ佐々木が? 橘さんの強い勧めでね 『佐々木さんも勉強会に参加するべきですっ!』 ってうるさいのよ。 どこで二人の勉強会のことを知ったのやら あたしとしてはあまり気が進まないんだけど、橘さんがしつこくって。 二人の睦言を邪魔しても悪いし、顔を出したけど断られたといえば彼女も納得するでしょう。 じゃ、あたしは帰るわね。 ドアを閉めようとする佐々木をハルヒが呼び止めた ちょっと待って! そうね、確かに一人じゃ面倒見切れないかもしれないわ。 佐々木さんが手伝ってくれるなら私も助かるわ。 おいおいおいおい そう?なら、あたしも協力させてもらっていいのかしら。 えぇ。よろしくお願いするわ。 ちょっと待てハルヒ 佐々木もなぜ女言葉で話してる。 部屋の主は俺だ。当然、話しかけるべきは俺で、話し言葉は男言葉ではないのか というか、ハルヒが断れないように挑発しただろう。睦言なんぞとは無縁だぞ と、いうわけだ、キョン。 東大でもケンブリッジでもオックスフォードでもMITでも、トップ合格できるくらい叩き込んであげよう。 覚悟したまえ。 そこで男言葉か。 …………4月とはいえまだ肌寒い陽気だというのに、汗がつたう。 ここは俺の部屋だというのに、なぜこんなにも居心地が悪いのだろう ふとみると、時計は21 30を回っていた。もうこんな時間か。 今日はこの辺にしないか? 今日はいろいろな意味で疲れた そうね 佐々木と二人頷きあい、ハルヒが宣言した 今日はここまでにしましょう 二人を送るために自転車を引っ張り出した。乗っていくためではなく、荷物運搬用だ。 うぉ?おい、佐々木、やらく重たくないかおまえのカバン?何が入ってるんだ。 女性の持ち物を詮索するものではないよ、キョン。 そうよ。まったくデリカシーに欠けるんだから お前の口から『デリカシー』なんて単語が出るとは驚きだ なんか言った? なんも しかしこの重い荷物をかかえて駅から家まで?誰か駅まで迎えに来るとか? 歩いて帰るつもりだよ。たいした距離でもないしね。 わかった。佐々木は家まで送ってやる。 ハルヒは駅まででいいか? ………… ハルヒ? いいわよ送ってもらわなくても ハルヒは自分の荷物をひったくるように言い 駆け出して行ってしまった 翌日の月曜日、教室に入るとハルヒが机に突っ伏していた 体調でも悪いのか? 別に なぁ、昨日は何でいきなり帰ったりしたんだ? どうでもいいでしょ ほら岡部来たわよ。さっさと前向きなさい ハルヒは一日中ダウナーモード全開でおとなしく、 シャーペンで背中をつつかれることは一度もなかった 放課後、文芸部室にハルヒはいなかった 今日はおやすみだそうですぅ お休みなのにお茶を淹れてくれるってことは、何かあるんですね? ハルヒに聞かれては困るような。 えぇと、私にはないんですけど、古泉君が… えぇ。察しがよくて助かります 昨日から、閉鎖空間の発生頻度が一気に増えました。まるで中学時代の頃のように あなたに原因があるのではありませんか? すまんが心当たりがない もしよろしければ、昨日のことを教えていただけますか? 俺は昨日のことを話してやった。 そうですか・・・佐々木さんが それでは、僕たちにはどうすることもできませんね 耳にたこでしょうが、『あなたに期待する』としか言いようがありません そろそろ帰ったほうがよいでしょう お引止めしてすみませんでした 家にはハルヒと、もしかしたら佐々木もいるかもしれない なんとなく、早く帰らないといけないような、帰りたくないような・・・ 玄関には、女物の靴が二足あった。 おかえりーーキョンくんー お兄さんと呼びなさい 君たち兄妹は相変わらずだね。くくっ 遅かったわね。今までなにやったてのよ お前こそ、なんで急に休みなんだ …気が乗らなかったのよ 古泉の言うとおりだ。確かに、こいつはおかしい はい、これ どかっという擬音がしっくりくるほどの紙の束。まさかこれ全部・・・? 当然でしょ。ほらさっさとやらないと朝になるわよ カリカリカリカリパラパラ カリカリカリカリパラパラ うぅぅぅまだ半分残ってるぞ。ちょっと多すぎないか? 普段からやってればたいしたこと無いわよ。 なぁハルヒ、ここちょっと教えてくれないか? どこ?はぁ?なんでこんな結果になるのよどんな計算してんの? どれどれ? あぁなるほど。キョン、この公式に当てはめる数字はこちらだよ。 なぜかというとだね、、、 佐々木の解説はとても丁寧でわかりやすかった サンキュ。助かったよ …… カリカリカリカリパラパラ ハルヒ、ここな「佐々木さんに聞いて」んだが・・・ ハルヒ? あたし帰る。悪いけど、佐々木さんあとお願い。 私はかまないけど、いいの? 待て。帰るなら送っていくぞ アンタは課題を片付けなさい! ハルヒは何を怒ってるんだ? …今ばかりは、君の鈍感さに感謝するよ…… 教室に入ると、空気がピリピリしていた。 昨日はダウナーオーラだったが、今日のそれは一触即発の地雷そのものだ。 どうしたんだ? あたし今日から行かないから なんだって? 志望校変えたの。 あたしはあたしの勉強するから、キョンにかまってるヒマは無いの。 ちょっと待て。どういうことなんだ? 今言ったでしょ。勉強の邪魔しないで。 放課後、厭な予感を振り払うようにSOS団アジトへ向かった俺は 厭な予感が当たってしまったことを知った。 ハルヒは今日も休みだった。 急いで帰ると、玄関には女物の靴が一足だけ。 佐々木、すまないが待っててくれるか? ハルヒを迎えに行ってくる なぜ? 涼宮さんには涼宮さんの事情があるでしょう? 勉強ならあたしが見てあげられるし、無理に呼ばなくても。 それとも、あたしでは不足? それは違う。何が違うのか、どう違うのか俺にもよくわからないが、違うんだ。 佐々木は俺の言葉を噛締めているようだった。 俯き、 こうなると思っていた。いや、わかっていたといってもいい。 だが、確かめずにはいられなかったんだ。悪かった。 もう来ないから安心したまえ。短い間だったが楽しかった。 顔を上げて これで…これであたしも一歩踏み出せると思う。 ありがとう… 佐々木の別れの言葉は、女言葉だった。 俺は佐々木を見送らなかった。 俺は携帯電話をとりあげ、ハルヒに電話をした 出ない。だが、俺は確信していた。ハルヒは絶対に携帯を手にして睨んでいる。 留守番電話が6度。7度目の正直はノーコールで繋がった。 しつこいわよ!わからないところは佐々木さんに聞けばいいじゃない! あたしはもう行かないんだから! まてハルヒ!頼むから切らないでくれ。 一度しか言わないからな。よく聞けよ。 お前が来てくれないなら、俺は一切勉強なんかしない。学校へも行かない。 明日からニート一直線に突き進む。 あ、あんたバカじゃないの?ナニふざけたこと言ってるのよ あぁ俺はバカだ。自分でもあきれるくらいだ。だからお前が必要なんだ あたしじゃなくても、佐々木さんがいるでしょう… 佐々木は帰った。もう来ないそうだ。 …そう…… そんなわけで、俺の将来はおまえにかかっている 俺たちは駅に近い、ちいさな公園を待ち合わせに定め、電話を切った。 俺が自転車を疾駆して公園に着いたとき、ハルヒはすでに来ていて 小さなブランコを窮屈そうに揺らしていた。 俺が隣に立つと、ハルヒはぽつぽつと語り始めた。 あたしね、卒業するのが怖い。 卒業して、みんな自分の進みたい道へ進んでいくのよね。 あたしは…自分がどんな道に進みたいのかぜんぜんわからない。 SOS団のみんなと離れ離れになって、自分ひとりになって、また中学のときみたいに? そう考えたら、立っていられないくらい怖かった。 だから、キョンと同じ大学に行くことにしたの。 ほかの誰がいなくても、キョンがいればきっと大丈夫。そんな気がしたから… まるでストーカー。迷惑よね… どうして?中学生のときのあたしは平気だったのに どうして今のあたしはこんなに怖いの? キョン…キョンは、あたしのことどうおもってるの? もし…あたしが特別でないなら、もうかまわないで。もうやさしくしないで。 やさしくされたら、キョンに頼ってしまう。 頼ったら、あたしは弱くなる。一人で立っていられないほど、弱くなってる。 それで、俺を無視したりSOS団をほっぽったりしたのか? ごめんなさい… こんなに弱気で素直なハルヒは初めてだ 『俺にとってハルヒは何なんだ?』か いつぞやの、灰色空間での自問が甦る ハルヒは俺にとって特別な存在なのか?今でも正直よくわからん だが、ハルヒが頼ってくれるなら俺はうれしい こんな俺でよければ、いくらでも頼ってくれ。 それって 俺を見上げるハルヒの顔には期待と不安、歓びがにじんでいた 反則的にかわいい顔にうろたえた俺は、地雷を踏んだ。 俺だけじゃない。長門も、古泉も、朝比奈さんも、鶴屋さんもいる。 ……っっっ!ばかぁっ! ハルヒはブランコからはじける様に立ち上がり、俺に詰め寄った アンタのせいよ!あたしは強かった!独りでいることなんてなんでもなかった! あたしが弱くなったのはアンタのせい! 有希でもみくるちゃんでも古泉君でもない、アンタのせいよ! 涙?ハルヒが泣いてる? アンタが優しいせい! あたしのわがままを許してくれるせい! あたしをっ!あたしをこんなに弱くして…すこしは責任取んなさいよ………っ 泣き崩れるハルヒを、俺は抱きしめていた。 泣いているハルヒなんて見たくなかった ハルヒを泣かせたくなかった 俺は懇願するようにハルヒにつぶやいていた 俺はここにいる。お前が望む限り、お前が望んでくれる限り。 キョン… あんたは?あんたは、あたしがあんたの隣にいることを望んでくれる? あたしは あんたの隣にいて いいの? 涙を湛えた目で見上げるのは反則だ。ちくしょう。かわいいじゃねーか。 ああ。いてくれ。 目の届かないところにいられると落ち着かん。 ん…いいわ。いてあげる…… 俺たちはその後しばらく抱き合っていた。どれだけの時間がたったのか ハルヒのぬくもりが名残惜しいが、いつまでこうしてはいられない。 俺たちにはやるべきことがまだまだ数多く残されている。 安らぐのは今ではない。 ハルヒ、今夜はもう遅いから勉強は明日にしよう。家まで送っていくから。 ハルヒは頷き、俺たちは自然と手をつないで歩き始めた。 明日のために。二人で。 fin.
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2752.html
ハルヒニート最終章 「ただいま」 俺は仕事疲れの体を引きずって帰宅し、我が家の玄関を開けた。奥からエプロン姿のハルヒが顔を出した。 「おかえりキョン。ご飯できてるけど先に食べる? それともお風呂にする?」 家の中からはおいしそうな夕食の香りが漂ってきた。俺は風呂より先に食事にすることにした。 食卓の上には見た目にも美味そうな塩鮭や味噌汁などの和風メニューが並べられた。もちろん全てハルヒの手作りだ。その食事が4人分配膳されたところで、ハルヒが子供たちに声を掛けた。 「晩御飯できたわよ! パパも帰ってきたから一緒に食べなさい」 それを聞いて「は~い」という返事が二人分帰ってきて、子供二人がとたとたと足音を鳴らしながら食卓に着いていった。 「ほら食事の前はちゃんと手を合わせて、いただきますって言うのよ」 「「いっただっきまーっす!」」 子供たちは元気に答えた。 ハルヒの薬指には俺が送った結婚指輪、もうハルヒの姓は涼宮ではなくなっていた。 幸せを絵に描いたような光景を眺めながら、俺は…………。 「ちょっといつまで寝てんのよキョン? 会社に遅刻するわよ!」 俺は目を覚ました。ハルヒの声で。そう、全ては夢だった。なんて夢見ちまってるんだ俺……。疲れてんのか俺……? 「寝ぼけてないでさっさと起きて朝ごはん作ってよ! お腹空いちゃったあたし」 ハルヒはそう言って、再び台所へと引っ込んで行った。 妙な夢を見たせいで寝起きも悪い。一体なんだって俺とハルヒが結婚して、しかも二人の子宝に恵まれて暮らしてる夢なんて見たんだ俺は? フロイト先生も爆笑もんだ。 ハルヒは相も変わらず俺と同じアパートの部屋で生活している、食事代など生活費は俺に一切まかせっきりにしてだ。今のハルヒはいわゆるパラサイトとかニートと呼ばれる部類に属する生活を送っているのだった。 そして断っておくが俺とハルヒは結婚なんてしてないし、まして未だかつてそうしなければならなくなるような既成事実に繋がる行為をしたことも一度としてない、誓って言う。 俺はただハルヒが今のニート生活から脱却し、一人前の社会人になるまでの間こうして食事と生活する場所を一時的に提供しているだけだ。 「朝飯、何がいい?」 「ベーコンエッグ、あとサラダも付けて」 やれやれ、言葉だけ聞いてりゃ同棲相手の台詞にゃ聞こえんな。これじゃ少し大きめの子供と二人で暮らす父親といったところだ。 だがその子供にも最近少し様子に変化が伺えるようになった。 まず今だって、俺がフライパンで卵とベーコンの炒め物を作っている間に、ハルヒがそれを盛り付ける皿を自分から台所に出してくれている。 そんなの手が空いてれば誰だって当然することだが、少し前のハルヒからは考えられない行動だ。それにこれまた言われても無いのに、机の上を拭いて二人分の食パンをオーブンに入れてと、積極的に朝食作りを手伝ってくれていた。 そして食事の後はハルヒが俺と自分の食べた分の皿を流しで洗っていた。といってもこれは日替わりの当番制で、明日は俺がやることになっているんだがな。 一日中家にいる女と、日中働きに出ている男が家事を共有して、しかもどうしてそれを半分ずつというおかしな比率で配分されるのかと文句を言うのは、以前まではその家事すら俺が全部一人でやっていたことを知らない人間の考えだろう。 ハルヒは変わった。未だにニート状態からの脱却はかないそうにないが、家では掃除も洗濯も俺と共有してこなすようになったし、たまにだが食事も作ってくれるようになった。 そうなるために俺が努力した点もたくさんあるが、やはり何よりもハルヒ本人の気持ちがあったからこそここまでやってこれたのだと思う。 「ごちそうさん。それじゃハルヒ、行ってくるから」 「うん。いってらっしゃい、今日の帰りまた遅くなるの?」 「多分な。早くて6時過ぎ、遅けりゃ10時過ぎるだろうから、その時は電話するよ、晩飯は先に食べといてくれ」 「ううん。遅くなっても別にいいわ。キョンが帰ってくるまで待ってるから」 そりゃ自分で飯作るのが面倒だからか? とは聞かずに俺は家を出た。 風向きは変わってきている、それも確実によい方向に。 ハルヒは最近、以前と同じ活発さを取り戻してきていた。 ハルヒはあれほどハマっていたネットゲームからもすっかり足を洗った。まだ少しネットの掲示板を覗いたり、サイト巡りをする習慣は抜けていないらしかったが、パソコンの前に座ってるのはせいぜい一日に1・2時間程度ということだ。 この調子なら、本当にハルヒが働きだせるようになるまで心を快復させる日は近いかもしれない。いや、ひょっとしてもうとっくにそうなっているのかもしれない。 もしそうなったら、俺はこのハルヒとの奇妙な同棲生活を終えることができ、ハルヒも実家に帰ってまた元気に過ごすことになって、全て元通りのめでたしめでたしとなるわけだ。 俺はそれを望んでいたはずだ。恐らくハルヒにとってもそれが理想の形であるはずだ。 だが別に俺は今の生活になにか不満があるわけじゃない。 極論、今朝夢で見たような光景が将来にあったとしても文句を言いたい気分にはならない。 しかし冷静になって考えてみろ。ハルヒにだって選ぶ権利がある。あれほどの器量よしなら、きっとどんな男でも捕まるだろう。だったら、俺が無理にハルヒを引き止めることがあいつのためになるとは思えない。 「…………そりゃあな。元々吊り合わない仲だとは思ってたさ」 少なくとも俺がハルヒの立場なら、こんなさえない男に惚れたりしないと思う。だからハルヒも今は無頓着だが、あいつのためを思うなら今のうちにあいつを元の生活に戻してやって、早く社会復帰していい男と一緒になれるようにしてやるのが最善策なのさ。 やれやれ、俺にとってハルヒってのは何者なんだろうな? まるで年の離れていない子供を持っているような気持ちだ。気づけば俺はあいつの将来だのなんだのについて考えてる。 「え? 今日はもう帰っていいんですか?」 「ああ。取引先から急なキャンセルがあってね。今日予定してた仕事は全部無しになった。だからキョンくんもまだ早いけど帰っていいよ」 呼び出された上司からそう言われて、俺は一礼してからその場を後にした。 ちなみになぜ俺が職場でもキョンと呼ばれているかというと、同期入社してきた奴の中に俺と同じ名字の奴がいたため、区別するために俺の方があだ名で呼ばれることになったのだった。これで定年まで俺の本名を呼んでもらえる機会が無くなったわけだ。 「まあ、せっかくの半ドンだ。昼飯買って帰るか」 家では今頃ハルヒが一人で昼食の仕度を始めている頃だろうか。俺が会社を後にして、電車に乗って帰ってアパートに着いたときには、昼のお茶の間定番ソング「お昼休みはウキウキウォッチング」が流れている時間だった。 「ただいま、今日は早く帰れたから…………ってあれ?」 家の中には妙な景色があった。ハルヒがいるのは問題ないが、もう二人知らない人間が追加されていた。 「おかえりキョン、これあたしの両親、なんかあたしが心配で来たんだって……」 ハルヒがそう紹介した。 「あなたがキョンくんですか。娘が世話になっています」 母親のほうがぺこりと頭を下げた。俺もつられるようにお辞儀を返した。 「キョン。あんたが連絡してたんですってね、母さんたちに、あたしがここにいるってことを」 ハルヒはぶすっとして口をアヒル形にしながら言った。 そうだ、俺が連絡していた。ハルヒをこっちに連れてきた翌日に。つまりずっともう前の話になる。 そりゃあいくら家出人とは言え、黙って家に連れ帰って住ませてますとはいかないだろう、常識的に考えて。 俺はハルヒの両親に、ハルヒを預かっている旨、それについて本人の同意も得た旨、そしてしばらくしたら元のハルヒに戻ると思うから、それまで任せてみてくださいとの説明をしたのだった。 もちろん連絡先と住所も伝えていた。だがこのハルヒの両親は今更になってなぜいきなり尋ねて来たりしたのだろうか? 「うちのハルヒが随分世話になったようでしたな、キョンくん?」 ハルヒの父親が威厳に満ちた声でそう尋ねた。 「世話だなんてそんな……。別に迷惑だなんて思ってませんし……」 つい気おされるようになって、頭をかきながら俺は答えた。その様子をみてハルヒがふんと鼻を鳴らした。 「それで父さん、一体なんの用事よ? 会いに来ただけ? それならもういいでしょ、とっとと帰ってよ」 ハルヒはぶっきら棒にそう言ってのけた。俺は今までハルヒの家庭事情について詳しく知らなかったが、どうやらこの様子からすると、少なくともハルヒと両親との仲はそんなに良好なものではないらしい。 「ハルヒ、お前もいつまでも彼に面倒を見てもらっているわけにはいかんだろう。はっきり言おう、父さんたちは今日ハルヒを連れ戻すつもりでここに来た」 ハルヒの父親がそう言った。ハルヒはそう来るのはわかっていたとばかりに肩をすくめてため息をついた。 「はあ、やっぱりちっとも変わらないのね父さん。それと母さんも。いつもあたしにそうやって一方的に意見を押し付けるんだから」 「もうハルヒ! そんなこと言ってもあんたは滅多に母さんたちの言うことなんて聞かなかったじゃない! 高校選ぶ時だって、母さんたちが進めた私立の名門高校を受けずに何でもない公立高校に無理やり進学したのを忘れたの?」 「別にいいでしょ? あたしの事なんだからあたしが決めただけよ! 言っとくけど家になんて絶対戻らないわよ!」 ハルヒはぷいっと唇を尖らせて横を向いた。こうなったハルヒはもう誰の話も聞かない。俺でさえわかるんだから、このハルヒの両親も当然に理解しているだろう。 「……キョンくん」 「は、はい。なんでしょうか?」 というかこの人たちも俺をキョンと呼ぶのかよ。まあハルヒがそう教えたのだろうが。 「キミはハルヒの事をどう思っているんだね?」 「え? ど、どうって言われても…………」 「単刀直入に言おう、君はハルヒと結婚を前提として今の付き合いをしているのか?」 …………は? いきなり何を言っておられるのだこのハルヒパパは? 俺がハルヒと結婚する? なぜハルヒについての話が急に三段ワープ並みに飛躍して俺との結婚話にまで進展しているんだ? 「キミも常識ある大人なら、今のハルヒとの暮らしについておかしいと思うだろう? 一つ屋根の下で年若い男女が他人同士一緒に暮らしているなど……」 そりゃあ正論だと思う。俺とハルヒの生活は傍から見たら立派な夫婦生活と映るだろう。 「そうなったら社会的にはもう二人が一生を共にする気があるのか無いのかという疑問が出るのも当然だと思うだろう?」 「父さん! ちょっといい加減に……」 「ハルヒは黙っていろ! 私は今彼と話をしているんだ! キョンくん、だから君の考えを聞かせてもらいたい。もう君はハルヒと一生責任を持って共に暮らしていくつもりなのか、それともそうでないのかを」 「そんな急に言われても……。それにもしそうじゃないと言ったら、ハルヒを連れ帰ってどうする気なんです? ハルヒは知っての通り心の病を持っていて、とても一人で生きていける状態じゃあ…………」 「その事についてはもう心配いらない。知り合いの医者から紹介された派遣カウンセラーと話が通っている。ハルヒがうちに帰っても君の代わりはその人がする」 俺の代わりだって? そんな。俺がハルヒと一緒に暮らしてたのはそんな仕事みたいな関係じゃなくて………… 「キョンくん。誤解してもらっては困るからはっきり言おう。私は君にとても感謝している。この通りだ」 ハルヒパパは座ったまましかし深く頭を下げた。 「この家に来てハルヒを見て正直驚いたよ、以前家を出て行ったときとは比べ物にならないほど落ち着いてくれている。多分全て君のおかげなのだろう、本当にありがとう」 そうだ。ハルヒは前よりずっとまともになっている。もう自堕落に一日中パソコンと引っ付いて生活することもないし、部屋だって自分で掃除している。気の向いたときには俺に弁当を作ってくれることすらある程だ。 だったら…………ひょっとしてもうこの父親の言う通りにすべきではないだろうか? だってハルヒは誰から見てもほとんどまっとうな社会生活を営める能力を持っている。それが誰の手柄かなんて問題じゃない。ハルヒが戻れるなら、早く元の生活に戻してやるべきなんじゃないのか? そう、こんな不自然な関係はさっさと止めにして。 「ハルヒの仕事先についても大手の総合商社と話が付いている。ハルヒの一流大学の肩書きは中退とはいえ十分に買ってもらえたよ」 普通ここまでしてくれる両親ってのは中々いないと思う。ハルヒの両親も、紛れも無くハルヒを愛しているんだ。それは違いない。 でも、ハルヒは気にいらない表情でぶすっと顔をしかめていた。そして俺も内心同じ気持ちになるところがあった。それがなぜなのかはわからない。 「それでねハルヒ。あんたももう25でしょう? もういい相手を見つけて家庭を築いていく年よ、だからその会社で働きながら男の人と仲良くなって…………」 「イヤよっ!!」 ばあん、ハルヒが机をぶっ叩いて立ち上がり反論した。これには俺もハルヒの両親も驚いた。 「母さんも父さんも! いっつもそう!! あたしの事なのに全部そうやって勝手に決めて!」 「お、落ち着けよハルヒ!! 両親だってお前の事を思えばのことじゃないか!? ありがたい話じゃないかよここまでしてもらって! 感謝こそすれ文句をいう筋合いは無いだろ!」 俺がそうなだめると、ハルヒは荒い息を吐きながらもすっと椅子に腰を下ろした。 「……まあそういうことだキョンくん。それでさっきの質問の続きだ。君はハルヒをどう思っているんだ?」 ハルヒパパが落ち着いた、しかし低い声でそう尋ねた。 俺にとってハルヒがどういう存在なのか? それは…………ずっと前にも同じことを考えた。そして今も答えは同じだ。 俺はハルヒが好きだ。 この奇妙な同棲生活にも、言い得ないほどの満足感と幸せを感じていた。 だからハルヒと結婚を前提に付き合う気があるのかと聞かれれば。「はい」と答えることになる。 だが、だったらハルヒはどうなる? 今俺が一緒にいたいと言えば、ハルヒはこの場の勢いで同意するかもしれない。しかしそれが本当にハルヒのためになるのか? 今の生活を引きずってハルヒが婚期を逃すことを両親が一番恐れているのはわかる。そしてそうなったとき、俺は責任を取れるのか? そんなの取れるわけがない。親からすれば自分の娘の一生に関わる問題、必死になるのも頷ける。 ハルヒの両親はすでにハルヒのために家に医者やカウンセラーを準備させるとまで言っている。おまけに就職口も、いい結婚相手を探す方法まで用意してくれている。 今のハルヒは確かに以前のハルヒに戻ったが、それでもまだ高校生と同じくらいの精神年齢にしか見えない。そんなハルヒに今この場で無理やり俺を選ばせて、ハルヒが本当に幸せになれるのか? この両親だって口には出さねど内心は反対している、それは雰囲気で十分伝わってくる。そりゃあ当然だろう、ハルヒならもっと金持ちのいい男をいくらでも捕まえられる。可愛い娘を俺なんかにさらわれたくないと思っているだろう。 俺はハルヒが好きだ。だがそれ以上にハルヒ自身に幸せになってほしい。だったら、ここでの返事はもう決まっている。 「…………わかりました。もう俺がハルヒにしてやれることはありません。ハルヒをよろしくお願いします」 俺は手放した。いつでも手の届くところにあった俺の一番の幸せ、ハルヒとの生活を。 それ以上誰も何も言わなかった。 ただその時のハルヒが顔に浮かべた表情はひどくがっかりしたもののように見えた。ハルヒが一体誰に何を伝えたかったのかはわからなかった。 そしてその後の手続きはひどく事務的なものだった。 まずハルヒパパは、ここでハルヒが世話になった分の金銭を養育費として支払うと言ってくれた。 手渡された小切手に記された金額は、とても一人の人間が一年足らずの生活で必要とする金額ではなかったが、多い分は気持ちとして受け取ってほしいということだった。 それから、ハルヒはそのまま両親と共に家を後にした。これといった私物を持っていなかったハルヒは、ここに来たときと同様に手ぶらで着の身着のまま帰っていった。 あれほど怒り狂うように抵抗していたハルヒはなぜか帰るときはこの上なく大人しかった。 ぱたんと玄関の扉が閉じてからは静かだった。久しぶりに一人になった広い部屋で、俺は一人分の昼食を作って食べた。 それからまた元の生活に戻った。気楽で気ままな独身男性の生活ってやつだ。 仕事は忙しかったがそれが逆にありがたくもあった。早くハルヒの事を忘れちまいたかった。忘れないと俺自身がいつまでも前に進めないと思ったから。 部屋を模様替えして大掃除した。部屋にあったハルヒのために買って来た雑誌やらなんやらは全て捨てた。 クローゼットの中には一つだけ掛けられた女性物の服があった。以前まだハルヒが全くひきこもり状態から回復していなかったときに通販で一緒に選んで買ったものだ。家に送ってやろうかとも思ったがやっぱりそれも捨てた。 ハルヒだってさっさと俺の事を忘れるべきだと思ったから。俺の事も、ここでの生活も全て忘れて、ハルヒママの言う通りいい男でも見つけて幸せな家庭を築いていくべきなんだ。 1ヵ月経った。もうあまりハルヒの事を考えなくなった頃、夕方帰宅した時に一本の電話が掛かってきた。 せっかく家に帰ってまた会社から仕事の話じゃないだろうな。そんなことを考えながら俺は受話器を取って耳に当てた。 電話を掛けてきたの相手は会社の上司ではなく、ハルヒの母親だった。 ひどく狼狽している様子で、ハルヒの母親は恐ろしさから来る震えを堪えるのと同時に、嗚咽を漏らしながらむせび泣いていた。 なにがあったんですか? そう聞くと、ハルヒの母親はなんとか一言を搾り出すために呼吸を整えて、短く俺に告げた。 『ハルヒが自殺した』 後編に続く